まだかな橋と下津井の女

MadakanaBridge

 祇園神社のある山のふもと、その一画にはかつて遊郭があった。北前船が寄港すると、男たちはこの一帯に繰り出し、酒を飲み、女と遊んだ。遊女のなかには定期的に寄港する北前船の男と恋仲になるものもあった。たった数日の蜜月。そして男たちはまた海に戻っていく。彼女たちはそんな恋人と次に会えるのをひたすら待ち続けた。この橋のところまでやってきて、「まだかな、まだかな」と。そしてついた名前が、まだかな橋───。
 ロマンティックであり、いじらしくもあるこの橋の名前には、実はまだいくつか諸説がる。地元の漁師の妻や恋人が、夕方ここに来て帰りを待っていたという説。遊女ではなく、遊女を抱える女将が、金を落としてくれる船の寄港を「まだかな」と気持ちをはやらせ待っていたという説などなど。いずれにしても、女たちの気持ちを名前にしたこの橋は、20年前に取り壊されてしまった。いまは石の欄干の一部が残され、その場所を示しているのみである。