Krash Cinema Blog

ライター。元・日本美女選別家協会会員。
1963年倉敷(水島)生まれ。
コチラでも映画の話を書いたりしてます。

そうなのだよ、赤星くん。

 俺も今回の大相撲の件には腹が立っている。俺自身は相撲ファンじゃないんだけど、ウチの親父は相撲中継をいちばんの楽しみにしてる人だからね。琴光喜の処分も酷いが、相撲の生中継がなくなるなんて、そりゃあんまりだよ。


 今回の件は昨今の「コンプライアンス社会」化を象徴する出来事だと思う。違法なこと、不適切なことは徹底的に排除しなければならないという現代社会の圧力。
 それはまるで、口蹄疫の疑いがある牛を全頭殺処分するのにも似た徹底排除……なんて言ったら、これも不適切発言なのかね。ええ、関係ない事例を勝手な主観で結びつけて比喩表現するのはよくないことですね。お相撲さんにも牧畜業者さんにも、牛さんにも、口蹄疫の病原体ウイルスさんたちにも、配慮を欠く発言でした。どーもすいません。


 どこかで誰かが少しでも不快になるようなことは、けっして言ってはいけないというコンプライアンス圧力。そう、私自身の不快感にも誰かが詫びてくれることになっている。「相撲中継しろよ!」とNHKに電話すれば、視聴者センターの係員が丁寧に詫びてくれるだろう。あらかじめ用意されている定型文の棒読みで。
 今回の件でNHKが強調したのは「視聴者から反対意見が多かった」という理由だが、これも疑問がある。NHKが言っているのは、投書や電話やメールなどで放送反対の声が多かったという話にすぎない。あのね、自分から投書や電話をしてくるような連中は「クレーマー体質」の人間なのだから、反対意見の方が多くなるに決まっているじゃないの。
 しかし……だ。きちんと無作為抽出アンケートで世論調査をやってみたとしても、「相撲界はけしからん。こんなものを国営(的な)放送で流すべきじゃない」みたいな声の方が勝つのかもしれないなあ。ワイドショーなどから察せられる「世間の空気」はそんな感じだ。


 もちろん世間には「たかが手慰みのギャンブルぐらいで目くじら立てるなよ」とか「興行の世界とヤクザが結びついてるのは、昔からの常識だぜ」という声も少なくはない。少なくはないのだが、圧倒的に分は悪い。「違法行為を奨励するんですか!」の金切り声にかき消されてしまうだけだ。
 なにしろコンプライアンスは「絶対正義」の座にある。たとえ、企業がコンプライアンス対策のために多大な時間と人的コストを割かれて疲弊しようとも、大胆な発想もコンプライアンス的にダメ出しされ、クリエイティビティが低下しようとも、コンプライアンスはすべてに優先することになっている。コンプライアンス様は神様である。
 打ち合わせ会議で「クレームさえ来なけりゃ内容はどうでもいいって言うんですか!」と憤ってみせたら、「うん、そうだよ」と真顔で返される世の中だ。少しでも「不適切なこと」をすればクレーム炎上で抹殺されるぞという恐怖に脅え、今や我々はコンプライアンス様に奉仕するために生きている。「ハイル、コンプライアンス!」だ。


 いや、誤解しないでもらいたいが、相撲界が悪くないと言うつもりはない。NHKが生中継を中止する前に、相撲協会自身が名古屋場所開催を中止し、これまでの協会と部屋の組織を完全に解体し、まったく新しい体制を確立してから再スタートするべきだった。そういう局面に来ているのだと思う。
 相撲界は変わるべきだという意見には私も同意する。ただ、相撲界が何か「とんでもなく悪いこと」をやっているわけではなかろうと言いたいのだ。彼らはただ「古い」だけじゃないか。


「今の時代に合わないこと」というのは「前の時代では当たり前だったこと」なのである。封建社会では、師匠や兄弟子が新入りを殴るのは当たり前のことだったし、地位ある人の悪事や不祥事が口止めされ隠蔽されることも当たり前のことだった。地域社会は筋者の組織が牛耳ることによって秩序が守られていたことも一面の真実で、興行者は土地土地のヤクザの世話にならなければならなかったことも、すべて当たり前のことだった。いい悪いは別として「世の中はそういうもの」だった。
「昔は当たり前だったが今は許されないこと」を、相撲界は今でも「相撲界の中では当たり前」という認識で続けてきた。しかし、それもこの2010年の世の中では成立しない。この情報化社会においては、業界の「内々のこと」というヴェールの中に囲っておくことはできない。
 なのに「自粛」と称して稽古の公開もやめるなんて、まったくもって「反省」とは真逆のことをやってるのだから呆れてしまう。


 時代に合わせて体質を変えなければ相撲界は存続できない。私はそれを「正しいこと」としてではなく「やむを得ない方策」として支持する立場だ。古い体質を一掃し、今の時代のルールに則したスポーツ・エンターテイメント団体に変身すれば、大相撲が本来持っている「古き良き伝統」の多くも損なわれてしまうだろうが、それもやむを得ない。
 問題は相撲界自身がその「やむを得なさ」に対して認識が甘すぎるとしか思えないことと、例によってマスコミが無責任な「正義ヅラ」をしていることに腹が立つことなのである。