Krash Cinema Blog

ライター。元・日本美女選別家協会会員。
1963年倉敷(水島)生まれ。
コチラでも映画の話を書いたりしてます。

世界がファラに恋をした。追悼ファラ・フォーセット

ファラ・フォーセットの訃報をワイドショーで知った時、ウチのテレビの横にはファラのポスターパネルが立てかけてあった。あの有名な水着ポスターだ。世界で1200万枚売れたという中の1枚である。30年以上前、中学生の私が倉敷センター街にあった楽器店(店名が思い出せない)で買ったものだ。思春期の頃は数多くのアイドルポスターを部屋に貼り、やがて飽きたり恥ずかしくなったりして捨ててしまったが、ファラのポスターだけは大事に持ち続けていた。他のアイドルのポスターは「オナペット(死語)」そのものにしか見えないが、ファラのポスターは「時代のイコン」であり、チェ・ゲバラのポスターみたいにカッコよく見えたからだ。
 テレビの『地上最強の美女たち!チャーリーズ・エンジェル』でスターになったファラ・フォーセット・メジャーズ(当時は夫リー・メジャーズの姓を名乗っていた)の初主演映画は『シャレード'79』である。原題は『Somebody Killed Her Husband』。オードリー・ヘップバーンの『シャレード』とは何の関係もないが、ロマンチック・サスペンスだからということで付けられた邦題だ。 まあ、日本公開年度を調べる必要がないのはありがたい。79年だから私が高校1年の時だ。新装オープンして間もなかった頃の倉敷センシュー座で見た(同時上映はジャクリーン・ビセットの『料理長(シェフ)殿、ご用心』だったか、『ピンク・パンサー4』だったか……)。
『シャレード'79』は、デパートのオモチャ売り場で働きながら絵本作家デビューを夢見る男が、美しい人妻と恋に落ちたと思ったら、彼女の夫が何者かに殺されて……というお話。男は万年モラトリアム青年のジェフ・ブリッジスで、美しい人妻がファラだ。ニューヨークを舞台に、オモチャや絵本をモチーフにあしらった「オシャレな大人のメルヘン」風味のロマンチック・サスペンス。残念ながらDVD化されていないが、DVD化を熱望するほどの作品でもない。当時の批評は「ファラのスクリーン進出は失敗」という論調だったと思う。本当にとるにたらない凡庸な映画なのだが、手持ちのVHSで見返すたび、ファラの初登場シーンでジェフ・ブリッジスと同じ目つきになってしまう。デパートの売り場でキョロキョロと探し物をするファラを遠景から次第にアップにしていくショットの積み重ねと、それにボーッと見とれるジェフのショットの切り返し。何のことはない「ボーイ・ミーツ・ガール」シーンのありきたりな描き方なのだが、見るたびファラに恋してしまう。配給会社が『シャレード』の名をつけた気持ちも分からなくない。タイプは違うけどオードリーと同じくらい世界の恋人ですよ、と言いたかったのだろう。
 夫と幼い子供がありながら、デパートで声かけられただけの店員とすぐに恋仲になってしまうヒロイン。夫は仕事とカネとステータスにしか興味のないつまらない男だが、暴力をふるうわけではないし、浮気をしているわけでもないのにである。ファラのファンでなければバカバカしくて見てはいられない映画だろう。あのポスターと同じように、終始「チーズ」と言ってるみたいに横に大きく口を開いて微笑んでるファラが、ちょっと違う表情を見せてくれるのは夫の死体を発見するシーンだ。ショックで泣きじゃくるファラ。まるで小学生のようにエ~ンエ~ンと泣き、ヒックヒックとしゃくり上げる。演技の上手いヘタはともかく、演技プランとしてこんなコント調でいいのかね。とにかく甘えた声(さとう珠緒とか小倉優子とかのニュアンスを思い浮かべていただきたい)で泣けば可愛いというプランだと思う。でも可愛いんだからしょうがない、これでいいのだ、と思わせるファラなのだ。当時はまだ、そういう女優が大根だと批判されることはあっても、「男に媚びてる」と女性誌が叩いたりはしなかった。
 マイケル・ジャクソンの死を悼む言葉は彼の才能や人格を賞賛するが、ファラ・フォーセットの死を惜しむ声は彼女への恋心を懐かしむものばかり。私もそれ以上のことは言えない。ただ上っ面で好きになっていただけだ。そんな評価しか得られなかったファラだが、それを哀しい女優人生だったとは言いたくない。世界中の多くのバカ男たちが、核兵器のある国だからじゃなくて、ファラのいる国だからアメリカを好きになったのだ。それって悪いことじゃないでしょ、ファラ。