Krash Cinema Blog

ライター。元・日本美女選別家協会会員。
1963年倉敷(水島)生まれ。
コチラでも映画の話を書いたりしてます。

11/13 テレビとお酒とコマーシャル

『Krash Cinema Club』というタイトルなのに、テレビの話ばかり書いてるなあ。映画見ないでテレビばかり見ているので仕方ないんですけどね。というわけで、またテレビの話。前回のようなことを書くと気分が悪いので、今回はテレビをほめる話です。

 最近のテレビで、ちょっといいなと思ったのは江川卓と小林繁が「空白の一日から二十八年」を経て対面するという、あの話題のCMだ。28年前、「亀田事件」なんかよりもずっと深刻な論議をスポーツ界に巻き起こした「江川事件」。それを知ってる世代としての感慨深さも当然あるのだが、それよりもあのCMに心を動かされたのは、久しぶりに真面目なCMを見たなあと思ったからだ。
 江川と小林という、ある年齢以上の日本人なら誰もが知る因縁の二人の対面。広告屋さんが仕掛けたわけである。仕掛けではあっても、二人の間に流れる空気は本物だ。CMは演出をできるだけ抑え、その本物の感動を伝えようとしている。映像クリエイターや演出家のセンスを見せるための作品と化してしまったCMではなくて、このCMには本気で伝えたいことがある。「28年の時を経て、江川と小林が会って話をする。それってなかなかいいでしょう?」と、真っ直ぐ伝えている。
 ただ残念に思うのは、その感動がうまく商品には繋がっていない気がすることだ。これはお酒のCMなのだが、何のCMか印象に残っていない人が多いのじゃないだろうか。江川と小林の感動的な邂逅を見せ、お酒は人と人の間をつなぐのですというメッセージを伝えようするコンセプトは非常に分かりやすいのだが、なぜか最後の「時を結ぶ 人を結ぶ 酒は黄桜」というコピーにストンと落ちていかない。CMの送り手たちはなるべく上品な伝え方をしようと考えたのか、どうも商品側が控えめに身を引きすぎて、15秒CMのうち10秒が「江川と小林」のドキュメンタリー番組で、残り5秒で「黄桜がお送りしました」と提供コメントを言っているような、妙に遠慮したよそよそしさをもったいないと感じるのだが……。まあともかく、完成度うんぬんはさておき、昨今のテレビで「おっ、なんだかこのCM、本気で言いたいことがあるみたいだから聞いてみようか」という気にさせられるだけで貴重ではあると思う。

 江川と小林が巨人阪神のエースだった80年代、消費大国へ向かう日本は広告ブームで、コピーライターやCMディレクターが花形職業となり、若者のカリスマとなった。当時の若者だった私が、CMでいちばんすごいと思ったのは、小泉キョンキョンを起用した武田薬品の「ベンザエースを買ってください。」だった。雰囲気のいい言葉や奇をてらった言い回しに逃げるCMが増え、新鮮味を失った広告コピーを根本から見直し、これを買ってくださいという核心のメッセージに立ち戻った傑作である(後にも先にも一回限りの、究極の反則技コピーでもあるが)。映画は60〜70年代のヌーベルバーグやニューシネマの時代が最も面白かったように、CMはいい意味でも悪い意味でも80年代が最もノリまくっている時代だった。
 一年ぐらい前、その「ベンザエースを買ってください。」などで知られるコピーライターの巨匠・中畑貴志さんにお目にかかったことがある。酒の入った席で、知人を介して中畑さんが私たちのテーブルに来て、ちょっと語ってくれたのだ。お酒は思いがけない人と自分を結んでくれる。中畑さんは「ガンガンやりなよ。仕事でも女でも、自分のやりたいことをガンガンやりゃあいいんだよ」と私たちにハッパかけてくれた。40歳過ぎると、そんなことは他人からなかなか言ってもらえない。ひさしぶりに自分が20代の若造の気分になった。熱いのか温かいのか、なんだかよく分からないけれど、やっぱり中畑さんは大きいなあと思った。本物とか本気というものは、やっぱり本物で本気だよね。