Krash Cinema Blog

ライター。元・日本美女選別家協会会員。
1963年倉敷(水島)生まれ。
コチラでも映画の話を書いたりしてます。

5/13  ああ、松井が骨折しちゃった……

 野球のスター選手を語る時、「記録に残る選手」「記憶に残る選手」という言葉がよく使われるが、松井秀喜はそのどちらとも言い難い。今のところ大きな記録を塗り替えるような数字は達成していないし、「松井と言えばあの場面」と語りぐさになるほどドラマチックなプレイもさほど多くはない。
 それでも松井が大スターなのは、毎日そこに松井がいるだけで安心だと思わせてくれる選手だからだ。打てない時、勝てない時が少々続いても、奴が出続けていればきっと大丈夫。シーズンが終わった時、アイツがいてくれて本当に良かったと思わせてくれる。松井や阪神の金本などは、そういうタイプの選手だ。記録や記憶ではなく、今日という毎日に生きている選手である。だから松井の戦線離脱はファンとして本当に辛い。
 松井にとって今季は最悪のシーズンとなった。昨年オフの契約更改からWBC出場辞退に至る流れで、これまで日本人に最も愛される野球優等生だった松井に対して批判の声が上がりはじめ、ついに無念の骨折だ。しかし前向きに捉えるなら、これが松井にとってさらなる成長の糧になるかもしれない。甲子園の大怪獣から日本プロ野球界を代表する4番バッターに、そして世界最強ヤンキースの主力選手へと、順風満帆な歩みを続けてきたゴジラにとって、初めて経験する本格的な逆境だろう。頑張って乗り越えてくれ、松井。

 ……と、応援している俺は何なんだ。俺が応援しなくても松井は大丈夫だ。松井は自分一人で頑張れる立派な男だよ。頑張らなければいけないのは俺自身じゃないか。自分では何もしないくせに、松井みたいなスターに自分の夢を託して日々の慰めにしている哀れな男が俺じゃないか。
 ファン心理なんてのは、ただの依存症だと自覚している。他人の偉業に依存しているだけのファンをサポーターと呼び、「サポーターも選手と一緒に闘っている」などと言うのは嘘っぱちもいいところだ。ただ騒いで、いい気分になっている「見るアホウ」が何を闘っていると言うのだ。何かのファンになるということは、少しも立派なことじゃない。

 それでも、ファンになることはやめられない……という人生を描いた素晴らしい映画がある。『メリーに首ったけ』で知られるファレリー兄弟監督の最新作『2番目のキス』(原題“FEVER PITCH”7月から全国順次公開予定)だ。
 ドリュー・バリモア演じるキャリアウーマンに新しい恋人ができる。高校教師の彼は稼ぎもよくないしイケメンでもないが、ユーモアのセンスがあって、優しく穏やかな愛すべきナイスガイである。今度こそ最高の伴侶が見つかったと彼女は思った。しかし彼には、実は重大な欠陥があったのだ。彼こそは“神が造りたもうた地上最低の生き物”……すなわち“ボストン・レッドソックスの熱狂的ファン”なのである。恋人とのデートよりレッドソックスの試合観戦を優先してしまう男だ。最初のうちは彼女も「私は“野球と私と、どっちを選ぶの!?”なんて、つまらないことを言う女じゃないわ」と笑って理解を示しているが、結局はその「つまらないこと」を言わざるを得なくなっていく……。
 恋愛と野球愛を重ねたラブコメなのだが、野球の9回の裏のその先の延長戦に熱狂し、ラブコメの裏の裏の逆転劇を追求するファレリー兄弟は、さすがに愛という言葉を簡単には持ち出さない。23年間レッドソックス一色に生きてきた男の気持ちを「野球愛」と単純に賛美はしないのだ。「オブセッション(強迫観念、執着)」という言葉を主人公に言わせ、野球チームのファンであり続けることにいったい何の意味があるのかと自問自答させる。
 恋愛だって同じだ。異性に恋することは、愛という崇高な精神にはほど遠い。ただ彼や彼女を自分のものにしたいという欲望と執着にすぎない。だけど人は「君を愛してる」と言い、「野球を愛してる」と言う。
 野球というスポーツは基本的に時間制限がない。日本のプロ野球は延長12回引き分けという規定を導入しているが、本来は決着がつくまで延々と続けるのが野球だ。また、野球のフィールドにはサイズの制限がなく、球場によってフェンスまでの距離はまちまちである。だから「ファウルラインは永遠の彼方へと伸びている」とロマンチックに表現されたりもする。野球とは永遠の時間と空間を意識させるスポーツである。
『2番目のキス』の主人公たちは、いちおう愛の勝利を得る(これはラブコメとして当たり前のことなので、ネタバレと言わないでください)が、それは今日の試合に勝ったということにすぎない。明日はどうなるか分からないが、永遠の果てにある真実の愛を求めて、勝っても負けても試合に出続けるのが人生だ。野球場の中で、永遠を信じること。その先にはきっと、たぶん……愛があるんじゃないでしょうか。