二週間ほど前、児島の「オネストコーヒー」にコーヒー豆を買いに行ったときのこと。いつものようにソフトブレンドを500グラム買って、豆をひいてもらった。料金を払おうとして、レジのところにある小さな箱が目にとまった。その箱のなかにサイコロが3つ入っていた。
「実はいま、9周年記念キャンペーンをやってるんです」
と、店員の若い女性。
「はあ、で、これは?」
「サイコロを3つふっていただいて、出た目の合計が9になれば500円の商品券をさしあげています」
目の合計が9ーーー(1・2・6)とか(1・4・4)とか、3のゾロ目とかか。
「ふるのは1回だけ?」
「はい、1回だけ」
「うーん、キャンペーンにしてはハードルが高い」
「でも、結構でますよ」
「じゃあ、やります」
サイコロを3つ手にもち、手のなかで転がして一度ふっと息を吹きかける。ギャンブルに明け暮れていた30歳代、チンチロリンでサイコロをふる際のぼくのいつものクセだった。久々に手にしたサイコロの感触に、無意識のうちに本気モードに入っていた。
「うりゃ!」
箱のなかでサイコロが転がる。2、3、そして……4。やった、目の合計、9なり。店員もぼくも一瞬、無言で箱のなかを見つめる。
「ああああああっ!」
唐突に、目の前の店員が叫び声をあげた。「結構、でますよ」と言ったわりに、なんだ、この驚きようは?
思い出すのは女ギャンブラー、オザワとのチンチロリン一騎打ち。夜の12時ぐらいにマンションの一室で4人で始めたサイコロ勝負。3時にひとり抜け、5時にひとり抜け、最後はオザワとの一対一の勝負。勝負がついたのは朝の7時。外ではセミが鳴いていた。
「まいった、負けだ」
ぼくは負けを認めた。当時は徹マンも当たり前だったが、さすがにチンチロリンの徹夜の一騎打ちはキツかった。でも、オザワに負けても気分は悪くなかった。当時はぼくもオザワも同類の狂い方をしていたけど、あいつの方が一枚上と最初から認めていた部分があったのだ。それに、あくまでも友達として、オザワという人間が大好きだった。
昨日、500円の商品券をもってコーヒー豆を買いに行った。ご主人がレジで対応してくれた。差し出した商品券を見て、「お、500円の券だ!」、少々驚いた様子だった。ぼくとしては、「なめんなよ」という感じで、少々得意な気分だった。