同級生の職場かなにかのお友達かと思ったら、実は彼女も同級生だったーーーというのが前々回のコラム。彼女は名前を名乗らず帰って行ったし、同級生のNともそんなに会う機会はないので、彼女の正体はしばらくわからない、はずだった。
一昨日の火曜日夕刻。いつものようにマルナカに行って、黄色いかごを肘にかけて「さて、今晩はなにを作ったろうかな」と徘徊していたそのときである。目の前に、いた。あの、名前を名乗らず去って行った謎の同級生Xが。
「あああー!」
「あああー!」
お互い声をあげて顔を見合わせた。あらためてまじまじと顔を見てみたが、「どこかで見たことがある」程度の記憶さえない。とっかかりがなにもない。
「おまえ、いったい誰なんだあ?」なんてぶしつけな質問はしない。ここはひとつ大人の会話で。
「この時間、よく来られるんですか?」
「いえ、きません」
「だったらなおさらすごい奇遇だねえ」
ちょうどそこにもうひとりの同級生Sが通りかかった。Sとはマルナカでよく会う。
「あら、久しぶり。元気?」
しばらく話をした後、「じゃあ」と言ってXがその場を去ろうとした。
「やっぱり教えてくれないんだ」
ぼくが言うと、憎たらしい笑みだけ残してレジに向かった。
同時に魚売り場に向かっていたSを小走りで追いかけるわたし。
「なあなあ、あいつ、誰なん?」
「あれ、Tさんじゃが」
T、T、T………T? TってあのTか?
「そう、Tさん」
Tならよく知ってる。ぼくのことを「コワくて話しかけられなかった」なんて言っておきながら、よく話してた憶えがあるぞ。1年生のときに同じクラスだし、しかも、同じバレー部だ。
レジを出たところで、くだんのTをつかまえた。
「顔が全然違うぞ……わからんかった」
本当に顔が変わってた。もっと太ってた、というかゴツかった。顔もカラダも。いまのTは線が細くて顔もシュッとしている。これじゃわからないよ。
「そう?」
「うん、アゴがちょっとしゃくれてるところはたしかに面影があるけど」
Tは笑っていた。
「ところでこの間『コワくて話しかけられなかった』って、よくオレと話してたじゃない?」
「うん、でも話すときにいっつも緊張してた」
「なんで?」
「怒りだしたりするんじゃないかと思って」
「ええ、そんな? オレ、もしかしてイヤな思いさせたことある?」
「うん、ない」
「そう、だよな。おまえもあの頃は結構キツかったぞ」
「え、なんかイヤな思いをさせたことある?」
「いや、ない」
それから二言三言、言葉を交わして別れた。
30年だ。30年会わないと、人は変わる。Tは面影がないぐらい変わってたし、Tによるとぼくも相当に変わったてたみたいだ。でも、人の変化は醜いものじゃない。むしろ、変化そのものにそれまでの人生が反映されていて興味深い。今度Tと会ったら、ゆっくり話ができればいいなと思っている。
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