いまから16年前、ちょうど30歳のときだ。『月刊プレイボーイ』の誌面で黒澤明と台湾の映画監督ホウ・シャオシェンとの対談を企画・執筆した。この16年前の記事が、この4月に発行された『大系 黒澤明』(講談社)という800ページ以上のごっつい本に再録されている。
16年ぶりに自分の書いた記事を読んだ。読み終わったとき、顔がほてっていた。文章の拙さもあるのだが、ドキッとする決定的な箇所があった。黒澤明がホウさんの映画『戯夢人生』にいかに惚れているかを述べた後、司会のぼくが口をはさむ。「それは主人公の人生と黒澤さんの人生にシンクロする部分があったんじゃないですか?」。そのぼくの見解に対してあの黒澤監督が言う。
「そんなことじゃないんだな。そうじゃないんだよ、とにかく完全に映画だということだね」
完全否定である。おまえ、ホントわかってないなあって感じで。もう読んでいて心拍が乱れまくりだ。なぜにぼくはこんなの平気で書いたんだ? そんなに鈍感だったのか、オレ? もっと面白いくだりもいっぱいあっただろうに。でも、ほどなくして、当時のぼくはなぜにその部分をあえて省かず書いたかを考え、結論を得た。つまりこういうことだ。ぼくの頭の悪さとか未熟さとか拙さとかが露呈するのはいい、と。そんなことよりも、黒澤明の「とにかく完全に映画だ」、この言葉を載せたかったのだ。そう思うと、30歳のぼくの一生懸命さが伝わって、変にジーンとした。30歳のユタカ、おまえ文章も構成もまだまだ半人前だけど、よくやった。グッジョブ!