新・不定点観測

赤星豊

vol.450 優しくしよう

 vol.444で書いたオトンと天気の話に反響があった。オトンがぼくの顔を見ると、きまって天気の話をしてくるからぼくがキレたという話である。たいていは「もっとお父さんに優しくしてください」みたいな、至極まっとうな意見。反論する気は毛頭ない。いや、ぼくだって優しくしたい。むしろ気分が悪いのは、オトンに優しくない自分に対してだったりするのだから。


 唐突だが、今週を「オトンに優しくしてみよう週間」にすることにした。でも、初日の月曜日から「オトンに優しくしてみよう週間」にしたことを忘れてしまい、優しいことはなにもできなかった。翌火曜日はかろうじておぼえていた。いつものように台所で夕飯の用意をしているぼくのそばで、炊きたてのご飯を神棚のお供え用の小皿に盛るオトンに無理矢理話しかけてみた。
「オトン、明日の天気はどうなん?」
 天気の話しか思いつかなかった。「天気の話はしてくれるな!」と怒っておきながら、天気の話しか思いつかなかった。
「おお?」
 やっぱりちょっと意外だったみたいだ。
「明日は晴れじゃ。結構ぬくうなるわ。でも、明後日からはまた寒うなるらしいで」
 アンタ、気象予報士か。天気の話をふられたオトンは、水を得た魚のように口が滑らかだった。たぶん、一日に何回も何回もテレビで天気予報を見ているんだろう。オカンがデイサービスに出ている間、やることがなくて、日がな一日テレビを見ているオトンを想像して可哀想になった。やっぱりオトンには優しくしてやろう。
「東北の方は雪が降ったゆうての、それが結構な量が降っとって、4月じゃゆうのに————」
 このオッサン、まだ天気の話をしていた。ぼくは明日の天気を聞いただけで、東北地方の天気なんかどうでもいいのだ。豚肉を強火でさっと炒め、さっき炒めた野菜を入れて、あらかじめ作っておいた味噌だれと合わせる。秒単位で作業をこなしていたこともあって、オトンの天気の話ははなはだうっとうしく、ひいてはオトンそのものがまたうっとうしくなった。それでも、「もう東北の話はええけん!」と突き放すことはせず、黙って聞き流していた。それがぼくにできる精一杯の優しさだった。


「オトンに優しくしてみよう週間」、あと残りは4日。