新・不定点観測

赤星豊

vol.433 オカン退院

 昨日、オカンが退院した。やれやれだ。一番ほっとしているのはオトンだ。オカンの病室に一週間通しで宿泊した。最後の方は目が落ちくぼんでいた。5年前にオカンが入院しているときは、ぼくが金〜日曜日の3日間、オトンが月〜木曜日までの4日間を泊まり込むという生活を3ヶ月つづけた。そのときはオカンもまだ自分のことはなんとか自分でできていたんだけど、いまやそれがままならなくなってしまっている。ぼくが代わってやっても、なんにもできないのだ。


 家までの車のなか、オカンはほとんど口をきかなかった。入院中はあれだけわがままをずらずら言い続けていたのに。オトンは「環境が変わって人まで変わった」とずっと言っていた。表情もとぼしかった。でも、家に着いたとたん、オカンに笑顔が戻った。
「ほんま遠かったなあ、どこまで行くん思うたが」
 玄関に座り込んでオカンがそう言った。大丈夫、いつもと一緒だ。
「ほな、オレ行くからな」
「あら、もう行くん?」
「うん、仕事せんと」
「頑張ってなあ」
「うん、オカンもな」
 こうして赤星家に日常が戻ってきた。赤星家に日常が戻るということは、つまり夕方になると買い物に行ってご飯を作るということ。
「夕方、帰ってくるけんな」
「ほな、いってらっしゃい」
 入院しているのと、家にいるのと。どっちがいいかというと、まだこっちの方がいい。