新・不定点観測

赤星豊

vol.430 ポークソテー

 久々の赤星家の夕飯の食卓。テレビが見過ごせない悲惨なニュースを報道していた。60代の男性が妻と30代の次男を絞殺した。お父さんは妻と次男をダブルで介護していたらしい。オカンの介護をするようになって、この手のニュースがやたらと耳に残る。それにしても、昔からこんな事件って結構あったか?
 こんなニュースの直後の沈黙はなかなか気まずいものがある。オトンもその沈黙がイヤだったのか、ぼくが焼いたポークソテーを口に運びながら言った。
「この前も80歳の妻が89歳のダンナを殺した、言うとったわ」
 これもまたいまどきのありそうな話である。話の膨らませようもない。でも、なにか返してやらないといけない。そこでついつい出たぼくの驚愕のセリフ。
「オトン、オカンを殺すなよ」
 オトンのリアクションはクールだった。
「殺しゃせんわ」
 なんなんだこの会話は? こたつを囲んでご飯を食べながらする会話か?


 オカンの口がどんどん悪くなってきている。この1年ほど徐々に悪化の一途。今日の夕食どきもそうだった。目のおかずを前に並べると、フォークでさも不味そうにつつきながら最初にこう言った。
「なんでえ、これ?」
 これ、オカンの最近の口癖。その言い方がマジでめちゃくちゃ癪にさわる。もう一気にカチーン! なのだ。
「これポークソテーゆうてな、豚肉を焼いたやつなんよ」
 そんな風に普通に返すべきなのだが、ぼくはオカンに目を合わせず、ただただ黙っている。それだけで精一杯。
「こんなん、昨日も食べたがな」
 またカチーン! 昨日は豚じゃないよ、カキフライだ。前にポークソテーをやったのは1カ月以上も前だ。ぼくのうつむく角度が深くなる。
「堅いなあ、これ」
 カチ、カチ、カチーン! 皿をつつくだけで、まだ一口も運んでないのに、なんでそんなのわかるんだ、オカン?
 オカンはけっして意地悪な人じゃなかった。誰に対しても公平で、思いやりのある人だった。やさしい人だった。なのに、なんだこの変わり様は? たぶん、脳の大切な部分の機能が低下していっているのだ。と、そんなことはわかっている。わかっちゃいるけど、カチーン!はどうしようもないのだった。


 カキ、豚肉ときたから、明日の夕食はブリかサバあたりか。どっちにしても、オカンの嫌いな魚だ。またイヤな思いするんだろうなあ……「なんでえ、これ?」ってあの言い方だけでもホントやめてほしいなあ……。