遅刻グセが相変わらずなおらない。といっても、たいした遅刻じゃない。おしっこが終わった後にパンツにできる染み程度だ。一方、ヒトミちゃんは年の始めに3日連続の病欠をしたものの、遅刻の類いは皆無。ぼくが事務所に到着すると、だいたい倉庫や事務所の掃除をしている。当然、ぼくはバツが悪い。
「いやあ、駅前で外人に道をきかれてさあ」
車のなかで考え抜いた言い訳、もう笑いをとるしかないわけである。
「ああ、そうですか」
ヒトミちゃん、箒をもつ手を休めずクスリともしない。
「『そうですか』って……ほら、オレ、車で通ってるわけだからさ」
このオッサン、なにを言ってるのやら? 彼女の顔はそんなだ。
「駅前に外人、いないし……」
見事に惨敗だ。もうちょっとわかりやすいのを言うべきだったか。今朝は今朝で5分遅刻した。ヒトミちゃんは事務所のなかで掃除機をかけていた。
「いやあ、駐車場でヘビに咬まれてさ」
わかりやすい分、面白みに欠けるが、朝イチでこんなことを深く考えるのもなんなので。
「そんなの、バレバレですよ」
まったく表情を変えることなくヒトミちゃんは言った。違うんだって、ヒトミちゃん! バレまいとして言ってるわけじゃないんだって! 言い訳で彼女から笑いをとるという作戦自体が間違いだったか。
こうして今朝も社長と社員は噛み合うことなく、アジアンビーハイブの一日が始まるのだった。