赤星家の夕食の支度はすでに1月3日からスタートしている。年が変わっても、うちの食卓はなんら変わらない。
居間でのオトンとオカンの小さな諍い。台所で料理しながら背中で聞いていた。
「そんなもん、もらっとらんよ」(オトン)
「いや、もろうたが。あの人が渡してくれたが」(オカン)
「あの人ゆうて誰なら? そんな人はおらんて」(オトン)
「あの人ゆうたらあの人じゃが。あの人がくれたが」(オカン)
「そんな人はおらんのんじゃって。なんももろうてないって」(オトン)
「いや、もろうたが、あの人がくれたが」(オカン)
「もろうとらんって」(オトン)
なんびとも入り込めない思考を身につけたオカンにはよくあること。ぼくなら、「ああ、あれなら返したよ」とか「あれ、食べてしもうたが」とか、適当な返事をしてごまかすんだけど、オトンにはそれができない。バカ正直なのである。
しかし、この手のやりとりをしばらく聞いてると頭がくらくらしてくる。冗談じゃなく、そのときも本当にくらくらしていた。折しも、マルナカで買った岡山の日生産の牡蠣が入った袋に包丁を入れていたときだった。ブシューッ! 牡蠣がたっぷり入った袋が一気に爆発した。牡蠣を浸けてあった塩水のしぶきを眼鏡にたっぷりを浴びて、一瞬、どこまでの事態になってるのかわからなかった。とっさに眼鏡をとってみる…ゲッ! セーターと、お気に入りのウールのパンツがびしょびしょだ。濡れた部分をにおってみる…ゲゲッ! もろ牡蠣臭。これで外を歩いたら牡蠣星人かと思われるかも。
「じゃけん、なんももろうとらんゆうて!」
雑巾で濡れた床をふきながら背中で聞いていた。今年はさて、どんな年になるんでしょうか?