新・不定点観測

赤星豊

vo.424 遅刻グセ

 家を出たのが8時50分。車のエンジンをかけ、エンジンが暖まるまで車の外でタバコを一本吸う。そろそろいいだろう。車に乗り込み、ギアをバックに入れて車を出す。ダッシュボードのデジタルの時計に目をやる。8時55分。ちょっとゆっくりしすぎたか。慌てて車を駐車場から出し、事務所へ向かう。途中、ふたつある信号にふたつともひっかかった。時計は8時58分、こりゃまずい。最後の直線を目一杯ぶっとばして事務所に直行。シャッターの前に車を乗り入れ、エンジンを切った。8時59分、ギリだ。ギリ、間に合った。
 2010年度の始業初日は10分の遅刻。昨日の2日目はさらに上回り20分。いきなり遅刻グセがついてしまった。こりゃいかん、と気合いを入れ直した始業3日目。初めて定時内に会社に到着することができた。まあ、ズルズルといかず、3日目にして修正できたことをよしとしよう。ヒトミちゃんは今日も病欠、誰も見てなかったわけだし(今年も甘いな)。ともあれ、明日からは8時45分に家を出た方がいい、絶対。


 夜、大家さんがやってきた。いつものように、満面の笑みで。そしていつものように、なんかもってる。箱だ。この人、会うとだいたいなにかくれる(これまでも何度かここで書きました)。お茶の苗とか、精米してない米とか。なんかしら問題があるものを。
「これ、なんだと思う?」
 この時点で200パーセント嬉しそうなのである。そのパーセンテージが高いほど、ぼくはダウンする、すでにそんなクセがついている。
「はあ、なんでしょうね」
「津山から送ってくれたの」
「じゃあ、ホルモンうどんですか」
「違うの、見て、これ」
 そう言って、段ボールの箱を開ける。死体が入っていた。バラバラに解体し、ラッピングして冷凍したやつ。
「これ、イノシシなの」
 いちばん小さいパーツをいただいた。大きいのをもっていけと迫るように言うけど、こんなのどうやって料理すりゃいいのよ? オレは料理の鉄人ですか?


 昨晩、カレーを作った。カレーに混ぜたら、イノシシだろうがアルマジロだろうが、オトンもオカンもわからないんじゃないかと思って。自然解凍したブロックの肉をスライスし、フライパンで焼いてみた。匂いがたちこめるかと思ったら、全然そんなことなかった。軽く塩こしょうをして味見してみた。おそるおそるという感じで。———ん? 臭くない。まったく臭みというものがない。それどころか、なんだ? すごく美味しいんじゃないか、これ? 特筆すべきは脂身の部分だ。豚肉よりも断然しっかりしていて、しかしまったく脂っぽくなく、味にえもいわれぬ深みがある(『美味しんぼ』みたいだ)。ん、うまい! 続けざまに何枚か口に放り込んだ。んんん、うまいぞ! 大家さん、ありがとう! ついでに、これまでものをくれるっていうのに、あんまり嬉しそうな顔してあげられなくてごめんなさい。これからは期待してます。