バットのデザインがついに完成した。ぼくとヒトミちゃんとでデザインした少年・社会人用の金属バット。
「悪くないよな?」
「悪くないですよ」
目の前にあるのは、デザインをプリントアウトした用紙をぐるりと巻いたぼくのバット。
「見て見て、どうよ?」
バットのグリップを握って、バッターボックスに立つイチローのように構えてみる。
「カッコいいですよ!」
もちろん、ぼくのことを言ってるわけじゃない。ぼくがもっているバットのことだ。でも、ぼくのことをカッコイイと言われるよりも数段嬉しい。
「なんか、すごい強そうな気がします」
これも、もちろんぼくのことじゃない。
先日、PRパンフレットの制作の依頼があった。担当の男性がふたり、うちの事務所にやってきて概要を説明してくれた。パンフレットのボリュームや内容は、かなりの部分でぼくに任せてくれるという。悪い話じゃなかった。でも、いくつかの条件で折り合いがつかず、その話はお断りさせてもらった。面倒くさい話になりそうな仕事は、極力避けたいというのがぼくの仕事のスタンスである。
それから約一週間後、担当からまた電話をもらった。折り合いがつかなかった一番の要因を解決できる方法を思いついたという。翌日の午前中にその担当の男性がひとりでやって来て、前回よりもさらに突っ込んだ内容の話をした。ここまで来ると、ぼくも仕事を受ける気でいる。しかし、納期のことでつまづいた。それまで内容のことばかりに話がいって、納期のことはほとんど触れなかったのだ。結局、二度来てもらって二度ともお断りするという、なんとも申し訳ない事態に。しょんぼりとして去っていく彼の後ろ姿には、哀愁さえ漂っていた。
その日の午後はわりとばたばたしていたんだけど、彼のことがちらちらと思い浮かぶ。思い浮かぶたび、「悪いことしたなあ」と心が軽く痛む。一度断られた相手にもう一度お願いするというのは、相応の思いがあるはずだ。彼も実際言ってたし。ぼくに是非作ってほしいのだと───やるか。
夕方、電話した。
「ぼくの方で内容を提案します。それでよければやらせていただきます」
電話の向こう、えらい喜びようだった。ぼくはというと、そんなに喜んでもらって悪い気がするわけがない。でも、一方で、えらいの引き受けちゃったなあと、これからさらに忙しくなるなあ、と。電話を切った後でも、やっぱやめときゃよかったかなあ、とか煮え切らない感じだ。
しかし、ぼくが仕事を受けるときって、だいたいそうなのだ。よっぽど面白い仕事以外は「やめときゃよかったかなあ」とマイナスのトーンから出発する。それがプラスに変わるのは、これという素晴らしいアイデアが思いついたとき。
(もしかしたら、オレ、傑作を作ってしまうかも……)
そうなるとモチベーションは一気にレッドゾーンだ。実際、今回のPRパンフレットも、昨晩、いいアイデアが思いついてからは、かなりやる気になっている。
それにしても、このご時勢で、実績もないこのぼくに仕事をお願いしてくれる人がいるということに感謝しなければ。というか、本当に感謝している。ありがたいなあ、と思いながら日々暮らしている。いや、マジで。