新・不定点観測

赤星豊

vol.408 仕事モード 

 夕方、マルナカで買い物を終えて外に出ようとしたとき、入り口の自動ドアのところで60歳ぐらいのオジサンが、「ああああっ!」と叫びながら入ってきた。一瞬、ドキっとして身をひいたぐらいの大きな声だった。な、なにごとよ? と、オジサン、続けざまに「眠てェ!」。その前の「ああああっ!」は、つまり「眠てェ」の助走みたいなものだったわけだ。そういえば、カワベくんが外科の病院で面白いサラリーマンに会ったそうだ。治療を終えて待合室に出てきたそのサラリーマン、「ああ、痛い! 痛い! うううん、痛いなあ。痛い、今日も痛かったなあ」とずっと「痛い」を連呼していたという。そのとき、サラリーマンの横を看護師が通った。
「すいません、しばらく痛いんですかね?」
 耐えかねてサラリーマンが聞いた。と、その看護師。
「痛いですよ」
 さらりと言って去ったそうだ。


 午後の打ち合わせ。うちの事務所にKJのクライアントであるメイカーの担当者ふたりがやってきた。ひとりがトイレから戻ってきて、うちのトイレにウォシュレットがあることに驚いた。
「そうなんです、もらった商品券で買ったんですよ」
「ウォシュレットって、痔に悪いらしいですね」
「げ、そうなんですか?」 
 寝耳に水の説である。
「肛門にはいい菌もあって、それまで洗い流してしまうらしいですよ」
 じゃあ、どうすれば?
「適度に使うのがいいみたいです」
「適度っていうのは?」
「8割ぐらいですかね」
「は、8割? その8割をどうやって判断するんですか?」
「はい、ふき取って、若干残ってるぐらいでしょうか」
「若干残ってる……」
 話の流れで、ぼくは痔の手術経験があることを告白した。6、7年前に東京で。ぼくにしたら「告白」ってほどのことじゃない。結構、みんなに言ってるから。
「そうなの? いや、実はぼくも痔をやってるのよ」
「どの痔ですか?」
「ぼくのは痔ろう」
「ええっ? あれ、いちばんやっかいなヤツですよね」
「そうなのよ、大変だったよ」
 それからお互いの手術後の体験を語り合い、おおいに盛り上がった。実に30分もの間。迷惑なのは同席したヒトミちゃんだ。この人たち、いつまで痔の話をつづけるのよ、とあきれていたに違いない。


 仕事がなくてDIYで一週間をつぶした先々週がウソのように忙しくなってきた。例のバットのデザイン、名刺のデザイン、看板のデザイン、広告のコピー。仕事が次から次へと入ってきた。さらにはぼくがフジタくんとデザインした学生服の発売が決まって、チラシやポスターや箱やリーフレットやポットや、そんな宣材の制作にも入らなきゃならない───それからもちろん次号のKJ。今日の夕方、突然焦りみたいなものがやってきて、久々に夜中まで事務所で仕事にいそしんでいる。こりゃ朝までやるかと相当な意気込みがあったのだが、さっき季節はずれの蚊に耳たぶをさされ、気分がダウンしたので帰ることにした。


 そうそう、この間の世界一周旅行がウェブになりました。シチズンのアテッサという時計のPRサイトです。ぼくが撮った写真でほとんど構成されています。8割ぐらいかな。よかったらチェックしてみてください。http://citizen.jp/world/