最新号のトリオ食堂で、一日に2回は足を運ぶ常連さんを紹介した。今年2月までKJの編集室があった児島のカフェWombにも、実は一日に2回はやってくるコアな常連がいた。フジタくん、38歳で独身。以前にも何度か紹介したが、Wombはこの春の商店街への移転にともない、カフェ部門は閉鎖。古道具一本にしぼってリニューアルオープンしている。ぼくが考えなきゃいけないのは、フジタくんのその後だった。Wombのカフェがなくなった後、行くところがなくて彼がひきこもりになりやしないかと、ぼくの行き着けの場所を紹介した。児島のパン屋さん「ペイネ」(店内で飲食可)と、倉敷のカフェ「tweet rocka」。ぼくの作戦はものの見事にピタリとハマった。フジタくんはWombのカフェなき後、このふたつの店にひとりでも頻繁に顔を出すようになった。ぼくとしてはしてやったりで、フジタくんも相変わらずハッピーなご様子。不満などあろうはずもないのだが、問題は、ぼくがこのふたつの店に顔を出すと、必ずいるのだ、先にフジタくんが。ぼくのお気に入りの席に座って、「どうもですゥ!」ってな感じで。しかもだ。こんなことが一度ならずあった。ぼくがペイネでお昼によく食べるカスクート(細長いフランスパンに玉子とチーズとハムをサンドしています)を注文したところ。
「あら、ごめんなさい。もうきれちゃったのよ」
全然申し訳なさそうにアサコさんが言う。「きれちゃった」と言いながら、目の前のフジタくんはそのカスクートを食べている。
「すんません、これが最後の一本でした」
こんなことが3度ほど続いて、ぼくはカスクートをオーダーするのをやめた。ぼくの頭から「カスクート」という言葉自体を完全にデリートしてやった。ここ数カ月、ぼくは本当にカスクートを食べていない。
昨日もまさにフジタ・デーだった。お昼を食べに行ったペイネで、「どうもですゥ!」。夜になって、『サムライソルジャー』の第6巻を倉敷の宮脇書店に買いに行ったついでにtweet rockaに寄ると、これまたヤツが「どうもですゥ!」。というわけで、今日のお昼は時間を随分ずらしてペイネに行った。いつも遭遇する時間よりも1時間半は遅くに。しかし、それでもヤツはそこにいた。
「どうもですゥ!」
もちろん、ぼくのお気に入りの席で。あいつ、フレディか? オレは『エルム街の悪夢』にいるのか? そういやフジタくん、いつもボーダーのシャツ着てるし(フレディも赤のボーダーがトレードマークです)。
でも、ヤツほどぼくが頼りにしている男はそうそういない。KJのvol.6で「金田一耕助の帽子が見つからない」と言えば、ちゃんとそれに似せた帽子を作ってきてくれるし。そういえば、つい最近、こんなことがあった。ぼくの車のキーの付け根部分がバキっと折れた。スペアキーを作ってくれるお店に合鍵を作ってもらいに行ったら、ブランクキー(元型になる成型前のカギです)がないということで、にっちもさっちもいかなくなった。と、偶然ペイネで会ったフジタくんに相談したところ、「ぼく、何本かもってますよ」。彼はぼくの車と基本的には作りが同じのルノー・エクスプレスという車に乗っているのだ。結局、彼にブランクキーを1本ゆずってもらい、合鍵屋さんに持っていってことなきを得た。ルノー・サンクのブランクキーを何本も持ち合わせている人間がこの世に何人いる? そんなオトコなら、お気に入りの席ぐらいなんぼでも譲りますがな。