新・不定点観測

赤星豊

vol.380 家の味

 ついにvol.9がやってきた。木曜日の朝、児島のオフィスに。
 いつものように岡山通運のオジさんがやってきて、ふたりでダンボール箱をトラックから降ろし、倉庫のコンクリートの床の上に積み上げていった。時間にして30分ほど。せっかくシャワーを浴びてきたのに、汗でぐちゃぐちゃ。海にでも落ちたみたいにびしょ濡れである。
 家に帰って二度目のシャワーを浴び、ふたたび事務所へ。ここでようやく、あがってきたばかりのvol.9を手にとった。いつもながら、クリーニング屋からとってきたばかりの、パリパリ糊のきいたシャツみたいだ。いつもながら、「こんなに薄かったっけ?」と思いながらページをめくる。おっと、音楽でもかけよう。アンプとプレイヤーのスイッチを入れると、クレイジー・ケン・バンドの曲が。ちょっと違うぞ。でも、曲をセレクトするような心の余裕なぞない。一刻も早く雑誌の世界に戻りたいのだ。おっと、コーヒーぐらいはいれるか。でも、本当にオレはコーヒーを飲みたいのか?と一度自問、そしてコーヒー案は却下───という感じで、結局いつものように、雰囲気を作るための演出めいたことは一切せず、誰もいない事務所でひとり最新号のなかにひたったのだった。


 vol.9、なかなかいいです。自分で言うのもなんだけど。
 
 
 日中は発送の手配に追われ、夕方になってやっと時間がとれた。最初の配布───もちろん、トリオ食堂である。この夜はなぜかお客さんが多くて、お父さんとお母さんは、なかなかゆっくりと見ることができない。やっと手がすいたと思って、雑誌を手にとると、はかったように次のお客さんが。「さあ、見ようか」と、お父さんが老眼鏡をかけることができたのは、閉店間際の20時近かった。
 ぼくはやることがないので、はまちのカマの照り焼きをおかずに、夕飯を食べた。「刺身、食べる?」とお父さんが言って、アジの刺身を出してくれた。熱心に雑誌に見入るお父さんとお母さんを前にして、ぼくは黙々とご飯を食べる。最初の頃だったら、こんな状況で味わうことなんてできなかっただろうと思う。でも、いまでは目の前にお父さんとお母さんを前にしても、普通にご飯を食べられる。
 ちゃんとした夕飯をここで済ませたというのに、「はい、お土産」といって、お母さんからチャンポン焼きと唐揚げが入った包みをもらった。どれだけ食べるんだって(でも、その日のうちに食べました)。ここに長く出入りしていたら、絶対太る。


 トリオの味はおふくろの味。オカンが家で普通に作っているような。vol.9で紹介しているのは、こんなトリオ食堂です。