オトンが見慣れないTシャツを着ていた。赤星家の夕食のお膳。オトンはぼくの真正面に座っている。
「そのTシャツ、どしたん?」
「おお? ユニクロで買うたんじゃ」
白地のTシャツに、線画で描かれたガンダムが数体。
「それ、なにか知っとん?」
「知らん。これしかなかったんじゃ、他のんはみな派手じゃったけん」
オトンとガンダムT。はっきりって違和感がある。『24時間テレビ』の黄色いスタッフTシャツを着た中年の局アナみたいな感じ。
最初はおかしくて、でも、すぐに寂しい気持ちになった。それからさらに、すごく悲しくなった。オトンが死んだとき、この究極に似合わないガンダムのTシャツを着た今現在の姿を思い出すかもしれないと思ったのだ。それって、なにかすごく悲しかないですか?
ここのところ、オトンが激やせしてきている。この半年で10キロやせたらしい。最近は小さな顔が余計に小さく見える。さぞかし、落ち込んでると思うかもしれないが、本人はやせたことがまんざらでもないらしい。わりと嬉しそうに、やせた、やせたと口にする。まったく太っていたわけでもないのにだ。
「それって、ガンじゃないの?」
普通はそんなに急激にやせたら、まずガンを疑うだろう。でも、オトンにはまったく想定外だったようで、ハトみたいな表情で「ん?」。
「どっか、悪いところはないん?」
「ないで」
「痛いところとか」
「ねえの、ご飯も美味しいしの」
「それにしても、ちょっとやせすぎだろう? たぶん、ガンだよ、ガン。それも、そんだけやせるってのは末期かもしれんぞ」
「そうかのお」
と言いながら、まだ本人は疑うことさえしていない。
「ガンじゃったら、よわるで」
「よわるのはこっちも同じだよ」
「いや、わしはええんじゃけどの、問題はオカンよ」
「うん、そりゃもうオレひとりじゃ手に負えん」
「どっかに入れてもらわんといけんの」
「そうゆうのは、全部オレがやるんだろうね?」
「そうじゃの、やってもらわんといけんわの」
オトンがガンになったら相当面倒なことになりそうなので、今日、成人病センターに電話してガン検査の申し込みをしようとした。結局、かかりつけの医師から紹介状をもらってくれと言われ、まだ検査日は決定していない。でも、これ至急だ。
いつかそれほど遠くない日にやってくるであろう、オトンとの別れ。でも、あのガンダムTの記憶がはっきり焼きついているうちは、まだ死んでほしくないと思っている。