新・不定点観測

赤星豊

vol.326 備前焼を買う

 今週に入って、突如として多忙になってしまった。先々週にやった地球人vs火星人のプレゼン、あれが通ったからである(それにしてもよく通ったな)。どれぐらい多忙かというと、息が苦しくなるぐらい。でも、久しぶりに忙しくなってみて思い出したんだけど、ぼくはちょっと忙しくなるとすぐ息苦しくなる。気持ちがどよんと重くなる。すっかり忘れてた。


 朝から車で遠出するのが今週の日課だ。今日は備前というところに行ってきた。備前焼で有名な、あの備前。そこで仕事のとっかかりを得るために、一軒のお店に入った。とりあえず、地元の人に多少のお世話をしてもらわないとはじまらないのがこの仕事なのである(どんな仕事だ?)。でも、見ず知らずの人間、しかも怪しげな風貌の人間に誰もが親切にしてくれるわけじゃない。というか、実際、かなり邪険にされがちである。そして邪険にされるたびに、ぼくはかなり傷つく。乙女のように、信じられないぐらい傷つく。そこで親切にしてもらいたいがためだけに備前焼のコーヒー茶碗を買った。それはいいのだ。卑下といわれようが、ぼくとしてはアリだ。しかし、問題はその値段。あろうことか、8000円もするやつだった。
(3000円とか4000円の値札がついているのだってあるのに。それで十分だっていうのに、なにやってるんだ、オレは?)
 そんなふうに自分を責めながら、気持ち悪いぐらいの余裕の笑みを浮かべて「ちょっとうかがいたいことがあるんですが」と切り出すぼく。相手をしてくれているお店の人は、上客であるぼくに丁寧に答えてくれる。ぼくはそれを「なるほど」とかあいづちを打ちながら、しかし心の中では変わらず、(なんで8000円なんだよ?)と攻め続けている。店を出るときは、まるで貴族のような優雅な振る舞いを見せるも、心中はやはり、(バカだ、オレは。本当のバカだ!)と続いている……なんてちっちゃなオトコか、オレは。


 夜、事務所に戻ってきて、8000円の備前焼でコーヒーを飲んだ。これが意外にうまかった。明日は早朝から津山だ。