新・不定点観測

赤星豊

vo.318 犬の記憶

 雑誌が児島に届き、発送を終えた翌日の朝のこと。黒住光から妙なメールが届いた。
「ついに原稿の発注がこなくなったか。いろいろ迷惑かけてすまん」
 いろいろ迷惑かけてすまん、の「いろいろ」は、ひとえに原稿の遅れを指している。だが、「発注がこなくなった」の部分は……2秒で思い当たった。今回のvol.8、目にした方はもう知っているだろうが、連載ページを一切なくしている。写真特集ですべてのページを埋めるという構成のためだ。紙芝居のぼびぃくんには去年の夏あたりに言っていた。「次の号は連載をお休みします」と。マンガの小林エリカには、去年の暮れあたりだったか。イラストのプシェメク・ソボスキにはたしか年が明けてから。そしてシネマクラブの黒住光には……あれ、言うの忘れてた? 


 それにしても、このメールのタイミングというのは絶妙だ。たぶん、ここ一ヶ月の黒住の心情の推移はきっとこうだ。


一ヶ月前
(ああ、そろそろ赤星から催促の電話がかかってくるだろうなあ。なに書こうか、さっぱり思いつかない。だいたい、原稿がたまってるから、とても手をつけられるような状態じゃない。なんとかこの状況から逃れる方法はないだろうか?)


3週間前
(赤星、やけに電話が遅いなあ。まあ、それはそれでラッキーなんだけど。あれ、もしかしたらついに愛想をつかされたか、オレ? いままで必ず原稿を引っ張って引っ張って。それでもあいつは怒らなかったが、内心はやっぱり怒ってたのかなあ。でも、いま電話すると「電話を待ってたんだよ。明日までに書け!」なんて言われかねないな。ここはしばらく様子を見ることにしよう。)


10日前
(さすがにここまで電話がないということは、オレの連載は中止という決断をしたんだろう。やれやれだ。まあ、仕方ない。オレって、ダメな男なんだから。赤星だって、最初からわかってははずだ。だが、待てよ、なんだこの一抹の寂しさは……) 


 黒住に電話した。
「あれ、言ってなかったっけ?」
 ぼくは80パーセントの確率で言ってない。言うのを忘れてた、おおいにありうる。
「なにを?」
「今回の号、連載を全部とっぱらっちゃって、全部特集にしてるんだよ」
「ああ、そうだったの」
 ぼくはまだシラを通し続ける。
「言ってなかったっけなあ、言ったはずなんだけどなあ」
 すると思いもしない返事が返ってきた。
「聞いたかもしれん」
 それからはお互いに何事もなかったように世間話に興じ、最後に「じゃあ、残り2回は頼むよ。黒住光のファン、わりと多いんだよ」。
 というわけで、黒住の記憶力の悪さのおかげで一件落着。まあ、ぼくも輪をかけて記憶力には自信がないから、本当は言ったのかもしれない。真相は藪の中である。


 本日、15日(日)の午後10時から、NHK教育テレビで『犬の記憶~森山大道』が放映されます。ニュース欄で告知はしていたのですが、あらためてお伝えさせていただきます。これを見ると、「わあ、すんげえ人が水島に来てたんだ」ということになるのではないかと。どうぞお楽しみに!