新・不定点観測

赤星豊

vol.282 5本は得か?

 コーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』を読みおえた。この春に見たコーエン監督の『ノー・カントリー』の原作である。句読点がほとんどないことや、セリフのかぎカッコを省いたユニークなスタイルで、最初はたしかにとっつきにくいんだけど、読み進めていくうちに、「こいつはスゴい小説だ」と確信していた。できれば映画を見る前に読んでおきたかった。
 できれば映画を見る前に読んでおきたかった、と思わないですむように、マッカーシーの『ザ・ロード』を読んでおこうと宮脇書店に行った。この作品も映画化され、来春あたり日本で公開されるはずだからだ(主演は大好きなヴィゴ・モーテンセンです)。が、案の定、なかった。早川書房から今年の6月に刊行されているんだけどね。ダメもとでTSUTAYAに行ったけど、やっぱりなかった。児島で読みたい本を本屋で見つけられる可能性はかなり低いと言っていい。仕方ないから、前から気になっていたんだけどハードカバーゆえに二の足をふんでいた貴志祐介の『新世界より』を探してみたが、やっぱりなかった。


 TSUTAYAであるからして、本がないとなると二階のDVDコーナーに足が向いてしまうのは必然だ。旧作DVD3本をピックアップしてレジに差し出す(『バットマン/ビギンズ』、ベン・スティーラーの『おまけつき新婚生活』、ニール・ジョーダン監督の『ギャンブル・プレイ』)。カウンターの向こうで、ブルーのポロシャツを着ているがために妙に若作りして見える縮れ毛のオジサンのスタッフがこう言った。
「お客さん、一週間レンタルだとこの3本で1020円になってしまうんですが……」
「ん? だから?」
「旧作だと5本借りていただくと1050円になるんです」
 3本で1020円、5本で1050円───。強制的に5本借りろ、と言われているみたいでなんとなく気分が悪いんだけど、30円で2本が見られるという誘惑には効し難い。
「じゃあちょっと待っててもらえます? 探してくるから」
 そう言ってぼくは小走りに陳列棚に戻った。後ろにいた客を待たせてるわけじゃないから、そんなに急ぐ必要はないんだけど、それでもなんか焦ってしまう。結局、『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』と、シャラマンの『サイン』を借りた。『サイン』なんか一度見てるし。ネタ知ってるし……。
 カウンターに戻ると、あのオジサンがこんなことをのたまった。
「お客さん、このDVDなんですけど、傷がひどくてですね。でも、一本しかないものですから、これがお出しできないんです」
「じゃあ待っててよ、また探してくるから」
 前以上に焦っていたのか、『フィースト』という、タイトルも聞いたことがないようなスプラッター&モンスター映画につい手が出てしまった。そして、「オレはこの5本を見たいのか?」と自問しながら、TSUTAYAを後にするわたし……。


 さて、あさっての日曜日(21日)はいよいよ「出張カフin京都」だ(TSUTAYAのどうでもいいネタよりも、こっちを先に書かなきゃいけなかった!)。ぼくは明日の昼には京都入りし、日曜日の正午に開店の予定だ。場所は河原町通のモリカゲシャツ(http://www.mrkgs.com/)。コーヒーを淹れてくれるのは、幻のコーヒーといわれる「オオヤコーヒ」のオオヤさん。一度も京都に赴くことなく、これだけの理想的な環境を整えられたのは、ひとえに京都特派員の高橋マキちゃんのおかげだ。しかし問題は、出張カフでぼくがなにをするかだ。オオヤさんのコーヒーはこだわりがものすごいみたいで、とても「ぼくに淹れさせてもらえます?」なんて言えなかったのだ。マキちゃん、オレは当日なにをしてたらいいのかな?