新・不定点観測

赤星豊

vol.212 五月晴れ

「天気がいいので自転車で外に出てみよう」とこのコラムを締めくくったのが一昨日のこと。見事な五月晴れのもと、買ったばかりのフライターグのメッセンジャーバッグを斜めがけして、幸せをかみしめながらwombに向かった。途中、普段は通らない道を通ったら、たまに顔を出す喫茶店「イーハトーヴ」の前に出たので、「これもなにかの縁」と立ち寄った。
 チカちゃんの煎れてくれたコーヒーを飲みながら、常連としばし談笑。平日の午前中から、こんなのでいいのかなと思いながらも、さらに幸せな気分になって、「ごちそうさま」とさわやかな笑顔で言って店を出た。
 幸せな気分というのは、しかし、どうも長くは続かないのだ。店の前にとめてあった自転車を見て我が目を疑った。後ろのタイヤがしなびたネギの青いところみたいになっていた。もう、くしゃくしゃのぺったんこ。しょうがないから、自転車を押して近くのバイク屋さんに行った。前にもここで自転車のパンクの修理をしてもらったことがあるのだ。
「もう、チューブがダメでしょうね」
 青いつなぎを着たおにいさんが言う。前に見てもらったとき、「今度パンクしたらタイヤごと交換したほうがいい」と言われていたのだ。結局、前後ともにタイヤを取り寄せてもらうことになり、ぼくの自転車のそのまま入院。ぼくはずっしりとくるフライターグのバッグの重みを肩にひしひしと感じながら、車を取りに行くためにてくてくと歩いて家まで戻ったのだった。


 昨日もまた絵に描いたような五月晴れ。午後から、我が児島レッドソックスの池田クンとエディター塾の塾生だった高田さんが遊びに来ていたので、Wombの駐車場でキャッチボールをしていた。そのとき、あろうことか、赤いフェラーリが駐車場に入ってきた。これじゃあキャッチボールなんかできない。ぶつけたら大変だ。また児島の観光旅館で早朝から働かなきゃいけない。ぼくたちは場所を移そうと、そそくさと競艇場の駐車場の方に歩いて向かおうとした。すると、フェラーリに乗っていた怪しげな男が追いかけてくる。しかも、ぼくの名前をクンづけで呼びながら。誰よ、アンタ? おれにはフェラーリなんか乗ってる知り合いはおらんですとよ───あれ、Kさんだ。去年、対戦した野球チームのピッチャー。たしか、郵便局かどこかに勤めていると聞いていたんだけどね。
「そっちでやらんでええんよ。ここでやってえや」
 Kさんは、つまり車を気にする必要はないと。それにしても、フェラーリに乗ってるとはとても思えないこのベタな児島弁。
「だって、ぶつけたらどうするんですか?」
「いやいや、ぶつけてもええんじゃって。気にせんのんじゃけん」
 結局、ぼくたちはフェラーリを駐車した駐車場の一画でキャッチボールを再開した。が、やっぱり車が気になる。あんまり気になって楽しくないので、逆にフェラーリを利用して遊んでみようと思いついた。
「高田さん、フェラーリの前に立ってみなさい」
「ええっ!」といいながらも、素直に赤いフェラーリの前に立つ高田さん。彼女めがけて、ボールを投げこんだ。暴投は絶対に、絶対に許されないというこの緊張感。これがなかなか楽しかった。ぼくの肩は縮こまって、逆にフェラーリめがけて飛んでいきそうだ。しかし、楽しかったのはぼくだけのようで、隣にいる池田クンの笑顔は明らかにひきつっていた。あとで聞いたところによると、「コワくてとても見れなかった」という。バッターが打席にいるだけでいきなりとんでもないノーコンになってしまう池田クンらしい。


 児島は今日もまた天気がいい、ちょっと汗ばむぐらいの快晴だ。なんだかんだと言いながらも、この連続快晴の3日間はおおむねハッピーである。