新・不定点観測

赤星豊

vol.158 最悪の事態

 最悪の事態だ───というと、たいていの場合は全然たいしたことなかったりするんだけど、今回は正真正銘の最悪の事態。昨日の午後、うどんを食べに行くという約束を果たそうとマチャ子に電話したときのこと。
「ごめん、今日はちょっと外に出てるの」
「ああ、そう。じゃあ、また今度時間があるときに誘うわ」
「うん。ところで、赤星さん───」
 この「ところで」の時点でぼくはかなりビビっていたりする。
「な、な、なによ?」
「ホームページでいろいろと書いてるんだって? わたしたちのこと」
 ぼくはあっさり悲鳴をあげた。ホラー映画によく出てくる、すぐに殺される頭の悪そうな大学生みたいに。
「な、な、なんでだよおお!?」
「副社長がみんなに言ってるわよ。赤星さんがすごく詳しく書いてるって。面白いんだってね。うちも読むのがすごく楽しみで───」
 辞める数日前のこと。「赤星くん、読んでるよ、ブログ」、副社長から突然言われた。瞬間、頭が真っ白になった。まさか、まさかこの旅館で働いている人がKrashjapanのホームページを見ているなんて夢にも思わなかった。ぼくは真っ白になった頭で、過去数回のブログの内容を、マイクロフィルムを見るみたいに思い返した。……大丈夫だ、ギリギリこの場は大丈夫。副社長のことを悪く書いたことはない。少しだけ胸をなでおろした、と同時に、東京ドーム10個分ぐらいの巨大な恐怖がむくむくとわきあがってきた。
「お、おネエさんたちには、絶対におネエさんたちには内緒にしておいてください!」
「わかった、わかったよ」
「ずぇ、絶対ですよ!」
 マチャ子によると、その副社長がおネエさんたちにふれて回っていたらしい。
「名前も似せて書いてるんだってね。○○子さんを節子さんとか。もう読むのがメッチャ楽しみ!」
 ぼくは早々に電話を切った。来週にもまた電話するなんて言ったけど、マチャ子にはもう会うことはないだろう。可愛げのない意地悪な女のように書いてしまったし、それに「天敵」なんて呼んでたし。だいたい、名前からしてマチャ子だよ。読んだが最後、今度はぼくが彼女の「天敵」になるのだ。そして、その不名誉を挽回する時間を与えることなくマチャ子は郷里に帰っていくのだ。さよなら、マチャ子。児島にはキミの知らないとっておきのうどん屋さんがあったのに……。


 ここのところ、このコラムで書くネタが思い浮かばない。バイトをしていたときは、毎日ふたつや3つはネタがあった。どれを書くか、ネタを絞るのに苦労していたほどだ。それがどうだ、いまやなんにもネタがない。実際、まったくネタがないわけじゃないし、今日だって朝から晩まで取材・撮影で動き回っていたから書くことがないわけじゃないんだけど、とりたてて面白くもないし、なにより筆が重くてまったく進まない。こりゃ、一種の燃え尽き症候群に違いない───って、バイトで燃え尽きてどうするよ、オレ?