新・不定点観測

赤星豊

vol.142 あと7日

 昼寝してしまった。「うとうとするのが気持ちよくって」みたいなお上品なのじゃない。獰猛なまでのやつをむさぼってしまった。バイトから帰ったそのままの格好で、昼の12時過ぎから夕方の4時半まで。目が覚めたときにはもう陽がずいぶん傾いていた。ぼくはあわててお風呂に入り、そのまま髪も乾かさずに家の夕飯作りにとりかかった。
 昼寝のおかげで頭はすっきりしたけど、どうなんだろう、さすがに疲れがたまってきているかもしれない。ここしばらく、唯一の休日の金曜日は、朝から岡山の中国デザイン専門学校でイラストコースのゼミの講師をやってる。つまり休みがまったくないのだ。

 
 疲れとはまったく関係がないかもしれないけど、つい先日、歯磨きをしていて妙なことになった。磨き終わって、泡を吐き出そうとしたら、泡が口のなかでべったりくっついて、いつものように下を向いただけでするっと出てこない。ん、なんだ? その瞬間、口のなかで妙な味がしてることに気づいた。かすかに苦味がある。思わず鏡の前に並べてあるラミネートのチューブを見る。あ、これ洗顔石鹸だ。何度ゆすいでも口のなかが気持ち悪かった。それにしても、なんでもラミネートチューブにするの、やめてほしいな。次は練乳で磨いたりするかもしれないし。


 疲れとはまったく関係がないかもしれないけど、今日、こんなことがあった。早朝のバイトで配膳をしていて、グラスがほとんどなくなってることに気づいた。配膳室に戻り、あっちこっち探してるところに、よりによってあのマチャ子が。
「なに探してるの?」
「グラスの予備ってどこにあるの?」
「グラスは2階の厨房よ。私、これから2階に行くからとってくるわ」
 あらま、意外だ。そういえば最近、彼女は以前のようにぼくに意地悪じゃない。グラスの件はマチャ子に任し、ぼくはお客で満杯のホールに戻った。と、しばらくして、ホールを出たところで女将代理からマチャ子が叱られている場面に遭遇した。
「グラスはもってきてるでしょ! こんなにいっぱいあるのに、よく見なさいよ!」
 ヤバい。ないと思ってたグラスがホールに、しかも水を入れたポットを並べたすぐ近くにたっぷり用意されていたのだ。ぼくは咄嗟に間に入った。
「すいません、ぼくがないって言ったんです。で、彼女が取りに行ってくれてたわけで」
「もう、よく見なさい!」
 マチャ子とふたりになって、ぼくは彼女に平謝りだ。
「ごめんな、ホントごめんな」
 マチャ子は微笑んで「いいんですよ」。あらま、またまた意外な。こいつ、結構いいヤツなんじゃないか?
「これでひとつ借りだ。必ず返すよ」
 こうしてひとつ、よりによってマチャ子に借りを作ってしまった。これ以上、疲れがたまったら、彼女に借りを返すどころか、サラ金からの借金みたいに、どんどん膨らんでいくかもしれない。それだけは避けなければ。

 人間、疲れたら休むだ。来週の火曜日には、東京から番長が遊びに来て数日滞在することになっている。そのときは、女将さんにお願いしてたっぷり休ませてもらおう。日がな一日、だらりとしていよう。あと一週間、あとたった7日だ。7日……長い。