新・不定点観測

赤星豊

vol.131 中国女子

 バイトの同僚に中国人の女の子が5人いる。みんながみんな化粧っけがまったくなく、髪を後ろにひっつめている。まるでみんなで取り決めしたかのようだ。そして、これまたみんなで取り決めしたかのように、愛想がない。そんな彼女たちにぼくはすこぶる愛想がいい。毎日、「おはよう、元気?」と笑顔で挨拶する。彼女たちの反応はというと、いつも決まって不機嫌そうに軽く顔を縦に振る程度。彼女たちとは一生、話なんかできないと思っていた。
 バイトも1週間を迎えた頃のこと。客室でひとり掃除機をかけていて、ふと人の気配がして後ろを振り返った。入り口の柱の影から顔だけがひょっこりのぞいていた。中国人の女の子のひとりだ。背が180センチぐらいある長身の子、ぼくはひそかにポノ子と名づけている。5人のなかでも無表情さでは抜きん出ている。
「おにいさん、知ってる知ってる?」
 ぼくは掃除機の柄をもったまま、思わずカラダをのけぞらせていた。
「な、な、なにをよ?」
 ポノ子は岸田劉生の麗子像のような顔で表情ひとつ変えず言った。
「あそこにあるホテルのこと」
「ど、どのホテルよ?」
「ほら、あそこ」
 彼女は指を廊下の外の窓に向けた。窓の向こうには、廃墟になっているビルがある。あそこがホテルだなんて知らなかった。
「あのホテル、幽霊出たの。それウワサになって、つぶれたよ」
 ぼくにとってはポノ子の顔は幽霊よりおそろしい。
「おにいさん」
「な、な、なんだよ?」
「幽霊信じる?」
「は、はぁあ? そりゃいるんじゃないのお? キミは幽霊信じてるの?」
「うん、わたしはハンシンハンギ」
 変な言葉を残してポノ子は部屋を出て行った。
 ポノ子と話したのがきっかけになったのか、中国人の女の子たちが「おにいさん、おにいさん」と話しかけてくるようになった。そしてあるとき、「お昼からどこ行ってるの?」と聞かれたので、雑誌を作っていると説明した。すると、「見たい、見たい!」と女の子のようにはしゃいだ。そう、彼女たちはそれまでの無愛想がウソのように、日に日に女の子の顔を見せるようになったのだ。
 この日曜日に、前日届いたばかりの最新号vol.5をみんなにあげた。翌日の彼女たちの顔を見せてあげたかったね。もうみんなの顔が輝いているのだ。「英語を教えてほしい」とか、「卒論にアドバイスをくれ」とか(彼女たちは中国の大学で日本語を専攻している大学生です)、ぼくはちょっとした有名人かインテリ学者って扱いだ。そんな彼女たちも、1年の研修期間を終え、来週の月曜日には中国へ帰ることになっている。本当に、本当に短い付き合いだ。そんな短い付き合いなのに、顔を見れなくなると思うと悲しい。でも、彼女たちと知り合えたことを嬉しく思う。このバイトをやってよかったと思う。