新・不定点観測

赤星豊

vol.120 第一期生、卒

 昨年10月に始まったKJエディター塾。早いもので、開講からそろそろ1年が経過する。ここ数カ月かけてvol.5の記事を作り終えたばかりとあってか、昨晩は3人しか集まらなかった。それとこれとは全然関係ないけど、塾も1年を迎えてそろそろ第一期生を送り出す時期に来ているんじゃないかと感じていた。
「このへんでもう卒業かな?」
 エリちゃんと岡部くんはぼくの言葉に静かにうなずき、赤木さんだけが眉をハの字にして、「そ、そうなんですかあ?」と悲しげな表情で言った。ぼくはその場で、次回を最終回とすると宣言した。
「最終回には何をやってほしい?」
 彼らに問いかけると、エリちゃんが開口一番こう言った。
「黒住光さんを呼んで欲しい」
 な、なにー? 黒住ィー? なんで最後にヤツなんだよ? オレに何か聞きたいって、そういうのはないのかよ? それに、黒住は東京にいるから、呼ぶのにもお金もかかるんだよ、エリちゃん。
「塾費から出せばいいんじゃないですか?」
 エリちゃんの言う塾費というのは、毎回生徒から徴収している2500円の会費のこと。つまり、ぼくの収入源のひとつなわけだけれど、塾で制作物を作るときのコストをまかなうためにとり置いているものだから、彼らはそれが自分たちの積み立てかなんかだと勘違いしているのだ。それでも、どこまでもお人よしなぼくは、「最後なんだからいいか」と、リクエストを聞き入れることにし、その場で黒住に電話を入れた。
「も、もしもし……」
 ものすごく脅えた声だった。「おれだ、赤星だ」と言うと、「なあんだ、赤星か」といつもの安心しきった横柄な声で。断言しよう、100パーセントの確立で黒住は原稿に追い立てられている。
「おまえ、9月、ヒマ?」
「下旬はね」
「ってえことは、なに? 上旬は忙しいってこと?」
「ああ、ニューヨークに行くんだよ」
 ニューヨークという言葉がヤツほど似合わない人間はいない。そんなヤツの口から「ニューヨーク」なんて聞いてむかっ腹がたった。しかも、ぼくが望んでるわけでもないのに、お金を出してやってまでヤツを倉敷に呼ぼうとしているのだ。
「それ、仕事なわけ?」
「ああ、一応ね」
 その仕事の内容を聞いてさらに腹がたった。ヤンキースの試合を観に行って観戦記を書くのだとか。その場で電話を切りたいところだったけど、塾生がすぐそばにいる手前、ぼくは事情を説明した。
「おまえをこっちにまで呼ぶ価値はあるのかね?」
「そりゃあるだろ。オレは(塾生を前に)話すことはいっぱいあるよ」
 というわけで、黒住案は黒住の都合で却下。塾の最終回は、ぼくの鶴の一声で、水島の「とらや」に行ってみんなでA定食を食べるツアーを敢行することにした。もしかしたら、その後に水島国際ボウルでボウリングをするというオプションも付くかもしれない。塾の最終回としてそんなんでいいのか、これじゃ塾じゃなくってサークルじゃないのか、という疑問は残るが、まあぼくとしてはその方がありがたい。ええ、費用は塾費から出させていただきますよ。