新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vool.69 倉敷(6)

069.jpg また悪いクセが出た。お上とみると、ついついたてついてしまう。数日前に倉敷市役所の某課からメールが届いた。その課の窓口や関係部署のコーナーでKJを配布したいといった内容だった。「海外の姉妹都市に送りたい」ともあった。それに対して、ぼくはこんなメールを返した。「冊数に限りがあり、配布するだけの数を差し上げることはできません。弊誌は倉敷市からの援助は一切受けておりません」云々。しかも、もらったメールに「Kurash japan」とあったので、つづりの間違いも指摘してさしあげた。ぼくが逆の立場でこんなメールを返されたら、悪態をつきながら即デリートだ。ところが、その担当者は全然めげなかった。突然のメールでのお願いとつづりの間違いを深く詫びたうえで、あらためて設置をお願いする長くて丁寧なメールを返してきた。その文面からは、KJへの好意や、KJを設置したいという熱意が伝わってきた。こんなメールを返されると、今度はこっちの体裁が悪い。どう見てもぼくの方が子供じみてる。こうなりゃ素直に謝るのが一番だ。ぼくは手のひらを返したように非礼を詫びるメールを返し、さらにKJを持参して挨拶にうかがう約束をした。自分で言うのもなんだが、そのあたりの転換は早い方なのである。

 3月14日、水曜日。午後1時30分、倉敷市庁舎に到着。倉敷が誇る建築家・浦辺鎮太郎が設計したこの市庁舎に来るのはこれで3回目。前の2回はKJがらみでいくつかのお願いがあって来たのだが、ことごとく却下されていた。たんに却下されただけじゃなく、イヤな思いをしたこともある。おっと、これ以上書くとまた悪いクセが出そうなので、このあたりでやめとこう。お利口な人は敵は増やさず、だ。
 メールの相手のいる階までエレベーターで上がる。広いフロアの一画にその課はあった。廊下と課の仕切りになっている低いテーブルの向こう、すぐ目の前にいた細身の男性に声をかけた。すると、「赤星さんですか?」。そう、その男性があのメールをくれた担当者だったのである。とりあえずK氏としよう。ぼくよりもひと回りほど若そうなK氏と机をはさんで話した。5分も話すと、ぼくは直感だけでいとも簡単に彼を信用し、KJの現状・実情を話しはじめていた。海外にさらに配布地域を増やすには、それなりに印刷の部数も増やさなければならないこと。現在の配送コストがかなりの負担になっていること。現状ではこれ以上コストをかけられないことなど。K氏は理解してくれて、海外への配布にかかるコスト等を援助するなど、支援策を検討してくれると言った。検討してくれるだけでもありがたい。たとえ実現しなかったとしても、ここに来た甲斐はあった。

 その後、K氏とは「とらや」(本誌に登場した中華料理屋)の話で盛り上がった。なんと、彼は随分前からこのお店にお世話になっているという。水島支所に勤務していた時代に、よく出前をとっていたのだとか。「チャーハンと野菜炒めとか、同僚と違う料理を頼んで、それをシェアして食べてました」。ちなみにぼくはA定食しか食べたことがない。やっぱりあの店には通わんと。
 夜になって家に戻ると、K氏からお礼のメールが届いていた。文面の最後の方に「とらや」に触れ、「オムライスが意外とおいしい」とあった。「是非一緒に食べに行きましょう」とも。「とらや」を通じて、彼とはさらに距離が縮まるかもしれない。それにしても、市役所に知り合いができるなんて、ぼくには「とらや」のオムライス以上に意外だ。これで倉敷の市庁舎も鬼門じゃなくなるかも。倉敷の滞在日数、12日間経過。