これまで何度か「仕事を手伝わせてほしい」というメールをもらったことがある。KJのふところ事情からして人を雇うことなんて到底できない。「給与は支払えません」とやんわりと断りをしたうえで、それでも手伝いたいと言ってくれる人には会うことにしている。単純に、雑誌を見てそう思ってくれるのは編集者として幸せなことだ。
この2週間でふたりの希望者があった。今日はそのひとり、26歳の女性と会った。名前はユウコちゃん。編集室で向き合うなり、履歴書を渡された。「雇えない」と言っているのにいきなり履歴書、さすがに初めての経験だ。ぼくは無意識のうちに手を伸ばし、履歴書を受け取っていた。他人の履歴書を読むなんて、なんかやけに楽しい。表面は住所・氏名と学歴・職歴などが丁寧な文字で埋め尽くされていた。面を裏返してみる。当然、そこには趣味とか特技とか、もっている資格なんかがあるものと思っていた。ところが、裏面は真っ白。このユウコちゃん、やる気があるのかないのか、まったくつかみどころがない。
「プリンを持ってきてるんです」
これもいきなりだ。履歴書のお次がプリンとな。
「あとカレーもあるんです」
「カ、カレー……。好きだけどね、たしかに好きだけど、あなた、なぜにそんなものを?」
「食事に困っているといけないと思って。車に置いてきたから取ってきます!」
そう言うなり、階段を駆け下りて外に出ていった。天然なんてもんじゃない。なんかスゴいのを呼び込んでしまったみたいだ。
そんな彼女に、ぼくは至極まっとうに、KJのコンセプトや、これからの仕事内容などを説明していた。そのときである。携帯電話が鳴った。「あ」と言って、電話をとった。まったく気まずそうなふりもなく、電話をとりやがったね、ユウコちゃん。
「うん、うん、わかった。わかった。じゃあね」
何事もなかったように彼女は携帯をしまった。
「あの、それ誰だったの?」
「うん? お母さん」
「お母さん、なんて?」
「又一(近所の中華料理屋です)に帰りに寄って、春巻きを買って帰ってって」
「あのさ、お母さんはあなたがいまここにいることは知ってるの?」
「うん、知ってるよ」
ヘタなコントよりもはるかにおかしい。あまりにのおかしさに、ぼくは彼女に少し興味をもちはじめていた。いや、変な意味じゃなく。もしかしたら、すごく面白いものを作るかもしれないという、彼女の感性に対しての興味である。実際、彼女はすごくユニークだった。考え方も、ものごとを見る視点も。これまで何人かとこうやって会ったが、実際、一緒に仕事をすることを想像したのは彼女が初めてだった。ぼくは彼女のそのユニークさをどこかでいかせないかなと思っている。いや、マジで。
結局、1時間半ぐらい、彼女と一緒にいた。帰るときにぼくはこう言った。
「じゃあ、まずは友達からとういことで」
ユウコちゃんは満面の笑みを返してくれた。今度来るとき、彼女は野菜を持ってきてくれるらしい。