「庄盛精肉店」という。児島味野の七番街という商店街にあるお肉屋さんである。普段はマルナカというスーパーのコーナーで肉を買っているんだけど、すきやきとか豚しゃぶとか、お肉で勝負が決まるここぞというときには必ずこのお店を利用している。
この七番街、買い物客の姿を見ることは稀だ。通年、片田舎にある真冬の遊園地といった風情がある。実際、冬に歩くとカラダが芯か冷えそうになる、そんなゴースト化した商店街の一角にあるのだから、児島の隠れた名店といっていいなじゃないだろうか。
自動ドアをくぐる。すぐに肉を並べたガラスのカウンターがある。そのカウンターを見るだけで、この店の仕事の丁寧さがわかる。肉の種類がとりたてて多いわけじゃない。でも、よく磨かれたガラス、きちんと切りそろえられた肉、またその並べ方といったら、そりゃあもう見事なのだ。一分の隙もない。見ていてこんなに気持ちがよくなるカウンターは、東京にいた頃も見たことがないぐらいである。
で、このカウンターの向こうにわりと広めの作業場がある。そこにいつも2人の男性がいる(先週行ったときは3人でした)。たぶん親子だと思う。ふたりとも雰囲気がすごく似ているのだ。お父さんは故橋本龍太郎氏に似ている。60歳代半ばだが髪は黒々として、いわゆる昔風な男前である。息子さんはもう少し顔が薄くて、『美味しんぼ』に出てくる小料理屋「岡星」のご主人に似ている。ふたりとも職人然とした雰囲気を漂わせていて寡黙な感じ。実際、寡黙なんだけど、いつも息子の岡星が話しかけてくる。
先週の土曜日に行ったときのこと。
「今日はまた寒いですね」
決まってその日の天気に関する話題である。
「そうですね、風がやけに冷たいです。今年は本当に変な天候ですよね」
「――───」
この岡星息子、うんともすんとも言わない。搾り出したようなぼくのコメントに対して何も返そうとしない。いつもそうだ、話が膨らんだためしがない。もう顧客といわれておかしくないぐらい通っているのに、ぼくは彼と天候の話しかしたことがない。
それでも悪い気がしない。このお店はそれでいいのだ。安心できるのだ。肉の職人がやっている肉屋さんという風情、いかにも児島らしい。