新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.76 東京(1)

076.jpg 「移動は疲れるでしょう?」とよく聞かれる。東京から倉敷は新幹線で3時間ちょっと。飛行機なら1時間。前にも書いたが、ぼくはだいたい新幹線を利用している。新幹線の3時間はあまり苦にならないのだ。だから「疲れるでしょう?」と聞かれると、「そうでもないですよ」と返事してることが多いと思う。しかし、まれに苦しいときがある。ごくまれに拷問のようなときもある。まさに今回がそうだった。「そうだった」と過去形で書いてしまったが、実際は現在もその責め苦は続いている。なぜなら、いまこの原稿を新幹線のなかで書いているのだから。

 4月7日、金曜日。13時42分岡山駅発ののぞみに乗った。○号車の8番A席。禁煙席の窓側である(ぼくはかなりのヘビースモーカーだが新幹線では吸わない。他人のタバコの煙が嫌いなんです)。3人席はすっぽりと空いているけど、車内はかなり混んでいる。ぼくは早速パソコンを取り出し、仕事にとりかかった。「できるオトコ」っぽくてカッコいいぞ、オレ。と、そんな自分に酔う間もなく、座席の周辺がやけににぎやかなことに気づく。子供の声だ。しかも単独じゃなく、複数だ。とくにぼくのすぐ斜め後ろ、メチャクチャうるさいがな。母親とそのまたお母さん(祖母です)らしき女性が座ってるんだけど、まったく注意しようとしない。注意しないどころか、一緒になって「おちゃらか、おちゃらか、ホイ!」なんてはしゃぎだす始末。もちろん原稿なんて一行も書けやしない。
「いい加減にしてください。眠ってる人だってたくさんいるんですよ。なんでそんな勝手が平気でできるんですか。親として恥ずかしくないんですか。ぼくはあなたの神経が信じられません」と彼らの前で述べる苦情を考えつづけること30分。その間にぼくの下着は汗ばみ、今週何錠飲んだかわからないバファリンをさらに数錠飲み、そうこうしてるうちに神戸に到着した。「あいつら、降りてくれないかな」と斜め後ろをちらちら見ていて、ふと自分の座席の横に目を戻した。すると、すぐ目の前に子供がいた。4、5歳の色白の男の子。30センチぐらいの距離で目と目があった。「この子はどこから沸いてきたの?」と一瞬わけがわからなくなったが、すぐに隣の空席に来た子だとわかった。手に引いたネイビーの小さなカートには「星の王子さま」の刺繍があった。

 男の子の母親は通路側に座り、ずっと携帯電話でメールしている。男の子はおとなしくていい子だった。公共の場でおとなしい子供は、それだけでぼくにとってはいい子なのだ。でも、彼にも問題がひとつ。折りたたみのテーブルを前のシートから降ろして、その上にカン入りのオレンジジュースを載せているのである。ぼくはそのジュースに男の子の手が伸びるたび、倒しやしないかとヒヤヒヤしどおし。彼の手にカンは大きすぎるし、テーブルは高すぎるし、もう何もかもがおぼつかないわけである。でも、母親はそ知らぬ顔で携帯を見てるし。後ろの子供は相変わらずうるさいし。これが拷問でなくなんなのよ?

 母親を叱れないぼくもどうかと思う。相手にそれほど悪い気をさせずに誤りを気づかせるだけのコミュニケーション力がこの歳でまだないのだから。それにしても、母親たちはあまりに無神経すぎないか? 自慢の子供をまわりの誰もがかわいいと思ってくれるとでも信じてるかのようだ。この際、はっきり言ってやろう。「おまえらみたいな母親の子供は全然かわいくないんだよ! 六口島のペコの方が100倍かわいいわ!」。……ああ、絶対言えない。東京ので滞在日数、1日目にしてかなり披露度高し。(写真は昨日購入した中古のチェアです。少しでも元気になるかと思って)