新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.75 倉敷(2)

075.jpg 朝起きたときから調子が悪かった。扁桃腺が見事に腫れていて、カラダが重くだるい。起き上がるのもしんどかった。幸い仕事が入ってなかったので、昼食にお好み焼きを作って、すぐにまた布団に入った。夕方、部屋の扉が開く音で目が覚めた。隙間からオトンが顔をのぞかせていた。
「生きとるか? オカンが見て来いゆうてうるさいんじゃ」
「うん、大丈夫じゃ」
「晩飯、わしが作ろうか?」
「いや、ええ。わしが作るけん」
 そうか、と言ってオトンは階段を下りていった。ぼくはすぐさま眠りに落ち、次に目が覚めたときはなんと6時を過ぎていた。我が家の夕食タイムはとうに過ぎている。慌てて一階に下りると、台所のテーブルの上にお盆があって、そこにぼくの晩御飯が用意されていた。大ぶりのトンカツに高野豆腐、ポテトサラダ、きんぴらごぼう。きんぴらは前日にぼくが作った残り物で、それ以外はすべて惣菜屋で買ってきたものだと一目でわかった。「ごめんな」とオトンに言って、お盆ごと二階に持って上がった。トンカツ以外は無理して全部食べた。「早く治さないと」という思いで必死に食べた。オトンに食事の世話になるなんて、なんのためにこの家にいるのか分からない。それに、たぶんぼくが東京にいる間はこの手の食事が多いのだ。不味いってわけじゃないけど、親が毎日こんなものを買って食べてると思うとやっぱり悲しい。
 着込んだ上にさらにパーカーまで着て、汗びっしょりになりながら朝まで眠った。眠るのも必死だった。背中がガチガチになってて、痛みで何度も何度も寝返りをうった。挙句、マッサージに行って背中をもんでもらってる夢まで見た。そして、今日の朝───。

 4月6日、木曜日。熱は下がっていた。正確に言うと、下がってる感じだった。のどの痛みもない。背中に痛みがある以外、体調は悪くない。でも、鏡を見るとひどい顔をしていた。1日で目が落ちくぼんで、顔もどす黒い。ぼくはすぐに風呂に入って、身なりを整えてから整骨院に行った。1時間ほどの施術で背中は随分と楽になった。でも、やっぱりまだ体調はよくない。ちょっとでも気を抜くと昨日の状態に逆戻りしそうだ。なんかガツンと気合の入ることをしようと思い、思い立って5分もしない間に「Womb」に行って、中古のイームズのアルミナムチェアを買った。正直、万札を複数枚使用する買い物は、昨年の11月に撮影用の三脚を買って以来である。無収入に近い現在の状態でこのぜいたく品の購入はさすがに気合が入った。冷静に考えると、無謀なことに違いないんだけど、今一番大切なのは気持ちが折れないようにすることなのだ。どうよ、これ? やっぱり間違ってるかな。
 それから夕方まで普通に働き、晩飯は昨晩の失態を取り戻すべく、いつもより品数を多く作った(昨晩の残りのトンカツはカツ煮にしました)。どうやら体調は元に戻ったようだ。昨日のようなことはあっちゃいけない。「これからは自分の健康にもちゃんと気をつけないと」とつくづく思った倉敷最後の夜であった。倉敷の滞在日数、6日間経過(写真は六口島で撮った象岩。鼻の部分は折れて短くなってますが、そのたたずまいはホント象にそっくりです)