新・不定点観測

赤星豊

vol.74 KJオリジナル『下津井節』完成間近!

 1カ月ほど前に車のカセットデッキが壊れてしまった。古い車だからCDなんかなくて、カセットテープに好きな曲を録音して車のなかで聴いていたんだけど、ある日突然、気分が悪くなるような異音がして、それっきりウンともスンとも言わなくなった。それからのぼくはすっかりラジオっ子だ。おかげで、いま日本ではやってる邦楽をよく耳にするようになった。これまでの人生で初めての経験といっていい。
 最近、気になる曲がふたつある。ひとつは平井賢の曲で、なんとも詩にドキリとさせられてしまうのだ。あの高い声でこう歌う。「その手で、その手で、わたしを汚して。何度も、何度も、わたしを壊して——」。おいおい、大丈夫なのか、その領域は。こりゃR指定が必要なんじゃないか? この曲がかかるたび、というかしょっちゅうかかってるんだけど、そのたびに腰のあたりがムズムズしてしまう。
 もう1曲は去年の紅白にも出たらしい、『千の風にのって』。これ、死んだ人の歌である。お墓にお参りにやってきた夫だか恋人だかに向かって、「わたしはそこにいません、死んでなんかいません」。現実的に考えれば、この人は確実に死んでいるのだ。でも、死んでないと言い張り、自分は風になって駆け巡っていると言う。最近、妙に死後の世界づいているぼくにとって、この曲の大ヒットは偶然とは思えない。電通か博報堂が江原を巻き込んで「死後の世界」トレンドを作り出しているんじゃないか。最悪なのは、この歌がやけにシンプルで、シンプルであるがゆえに耳にこびりついて離れないのだ。たまに無意識のうちに「死んでなんかいません♪」なんて家の中で歌っていたりする。そういえば、数日前の春一番が吹いた夜なんか、窓の外のびゅうびゅうという音が、霊が暴れているように聞こえてやけにこわかったっけ。

 今日は岡山の録音スタジオで下津井節のレコーディング。HPのトップページで流そうと、オリジナルの下津井節の制作をフルタくんとチコちゃんに依頼していたのだ。彼らにお願いしたのはつい3週間ほど前のこと。この短期間のうちに、フルタくんがすこぶるクールなアレンジで曲を作ってきた。
 生まれて初めての録音スタジオ。ガラスの壁の向こう、隣の部屋でチコちゃんがヘッドホンをして歌っている。こちらの部屋では、同じくヘッドホン姿のフルタくんがわからない機械に向かってレベルを上げたり下げたりしている。いかにも「レコーディングしてます」って図だ。ぼくはというと、椅子にゆったり座ってチコちゃんの声に耳を傾けている。歌い終わると、マイクで隣の部屋に声をかける。「いいねいいね、チコちゃん。でも、もう1回とってみようか?」。まるでつんくか小室哲哉みたいだ。
 2時間の録音の末、だいたいの曲が出来上がった。夕方、児島の編集室に帰って聞いてみた。いいね、最高だ。最初に「オリジナルを壊したい」とリクエストしたぼくの意図をふたりは完璧に理解してくれていた。そしてぼくが期待していた以上の、数倍のものを作ってくれた。たまたま2階に上がってきたWombのニシハラくんに聴かせたら、目をウルウルさせて「感動しました!」と言ってくれた。こりゃ、本当に最高の曲が出来てしまったみたいだ。こうして最高の下津井節が出来上がった夜も、しかし、ぼくの頭のなかには『千の風にのって』が流れていた。やっぱりカセットデッキを直した方がよさそうだ。