小学校に上がるか上がらないかの頃だった。春になると愛犬のジョンを連れて山に入った。遊びに行ってたわけじゃない。幼いユタカくんにはちゃんとした目的があった。お目当ては満開の花をつけた山ツツジである。適当な長さのところで強引に引きちぎり、両手に抱えられるだけ抱えて山を降りる。向かう先はオカンの勤める病院(オカンは当時婦長をしてました)。この病院にはお年寄りがたくさん入院していて、彼らの病室をツツジで顔が見えなくなった可愛い子供が、これまた可愛い真っ白の犬と一緒に訪問して回るのだ。これ、お年寄りにはこのうえない慰問である。でも、幼いユタカくんはそんなアマちゃんじゃなかった。お年寄りたちに、「1本100円じゃ」とツツジを売りつけていたのである。婦長の息子という立場を最大限利用しての悪徳商法。我ながら憎たらしいガキだ。ぼくが入院患者だったら、そんな子供はツツジと一緒に窓から放り投げるね。お年寄りたちは春になると「悪魔が来る!」と戦々恐々としていたかもしれない。放し飼いの白い犬なんか連れてるわけだし。あのとき入院していた患者のみなさん、すいませんでしたッ!
3月10日、金曜日。ついにきた! 「ツツジの押し売り」以来の販売ビジネス、当HPのオンライン・ショッピングがついに完成したのだ。今回の商品は山で勝手に生えてるツツジとはわけがちがう。まずはロンドンのグラフィック・アーティスト、ペドロがデザインした「JO-KEN-PO」Tシャツ。グー、チョキ、パーの3つのバージョンがあって、パーなんか千手観音みたいでかなりイカしてるのだ。3つ買い揃えて「今日はチョキでいこうかな」なんて軽いノリで着てもらいたい。ローランド・ハーゲンバーグがイラストを描いた「MIZUSHIMA」Tシャツは、地図の輪郭といい、魚に乗った女の子といい、ゆるさが絶妙! この強力な商品群に加えて、目黒三九氏の小説『ポイズン』もラインナップ。シルバーに白抜きの超クールな表紙デザインは、岡山のアーティスト、鈴木タオルによるもの。コレクション・アイテムとしても注目してもらいたいね。このコラムを読んだら、早速「Online shopping」のコーナーへ───と、一応ぼくにも商品紹介の文章が書けたりする。でも、「絶妙!」とか「コレクション・アイテム」とか、自分で読んでてイヤになる。いつかKJで「倉敷グッズ特集」をと考えてたけど、これ、再考だね。
今日は刷り上ったホカホカの『ポイズン』を書店に配って回った。配った先で、生まれて初めて納品書を書いた。妙に新鮮な感覚だった。いままで雑誌を作ることしかしてこなかった。販売は販売担当におまかせ、まったくノータッチだった。
KJをやったおかげで、これまで経験しなかったことをいろいろと経験した。販売もそのひとつだ。いい勉強になったと思う。これから、経験しなかったことをさらに経験するだろう。たとえば、「あの号は売れなかった」ということが何回とあったが、これからは「売れなかった」は自分が在庫を抱えることを意味する。それがどういうことなのかは考えるのも恐ろしいぐらいだ。でも、そういうことも今後きっとある。それでもいまは不安よりも楽しみの方がはるかにデカい。昔から、どんなに出来が悪くても、テストの結果が返ってくる日は楽しみだった。そのへんのふてぶてしさみたいなのは、子供の頃から変わってない。我ながら、やっぱり憎たらしいなあ。倉敷の滞在日数、12日間経過。