新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.67 倉敷(4)

067.jpg 3月9日、木曜日。夕方から水島のアーティストの丸山クン(本誌vol.2に登場)を連れて、岡山のレイデックス社へ乗り込む。今日はかねてから通達してあった「晩飯ジャンケン」の日。ジャンケンで負けたひとりが今晩の焼肉をおごるという、なんともスケールのデカいアダルトなイベントだ。明石、スワキ、藤原のレイデックス最強チームに対抗し、KJチームは最強の助っ人丸山クンを引き入れたというわけ。でも、チーム対抗じゃないから、チームを作ってもまったく意味がないんだけどね。ただ、自分が負ける確率が減るだけで。負けた場合におごる額も一人分増えるから、リスクはそれだけ大きくなるけど、こんなのは人数が多ければ盛り上がって楽しいってもんだ。

 場所は同社の近所に最近新しくできた「秀吉」。5分ほど待合のスペースで待たされた。「今日は背水の陣で、300円しかもってきてないッスよ」とスワキくん。「負けたらどうするだよ?」と普通は思うけど、この男、どうも負けそうにない。最後に彼と一対一になったら、さすがのぼくも気合い負けしそうなタイプなのだ。逆に一番負けそうなのが藤原くんだ。「ぼくはカードで払いますから」と藤原くん。そういうところがもうすでに負けてるわけだよ。一番負けてほしいのは同社代表の明石さんだが、彼もなかなかの使い手だ。
 個室に通され、飲み物をオーダーしてからいよいよジャンケン開始。「最初はグー、ジャンケンポン!」。第一回目、アイコ。かなり盛り上がった。「ポン!」で同時に5つの手が並び、アイコだと認識するまでにコンマ数秒の沈黙。そして同時に「オオオッ!」と大の大人5人が声をあげる。4回やってもアイコがつづいた。ぼくはその4回ともグーを出し続けていた。そして運命の5回目。ぼくの手は決まっている。グーだ。「ジャンケンポン!」。グーの手が4つ並んでいた。ひとりだけチョキ。目を大きく見開いて、明石さんが声をあげた。その手はまだチョキのままだった。やったなあ、藤原くん!
 しかし、だ。実はこれで勝負が決まったわけじゃない。KJ編集長であるからして、誰よりも年上であるからにして、最後の敗者とさらにぼくがジャンケンをして真の敗者を決定するというスペシャルなルールを設けていたのだ。いやあ、ふところ深いね。オレのことだけど。
 いよいよ両チームの代表が一対一で。ぼくは初志貫徹、グーを決めてた。「ジャンケン、ポ──」、この次の「ン!」の瞬間だった。時間にして0.0002秒ぐらいだと思う。ぼくの脳が「マズい!」と危険を察知した。何で勝てるか分からないが、とにかく「グーはいけん!」と。ぼくのかたく握った拳は偶然チョキを出していた。目の前に突き出された明石さんの腕、その先に手のひらが見えた。パーだ。いやあ、オレって強いわ。

 おなかはいっぱい、見事なまでに爽快な気持ちで店の外に出た。そこで思わぬ人とバッタリ出くわした。今年になって再会した初恋の彼女である。仕事が終わった後だろう、彼女はスーツ姿でパリっとした感じの年上の男の人と一緒だった。彼氏かどうかはわからないけど、見るからにアダルトなカップルだった。彼女とは少しだけ話した。少しだけ話して、彼女は店の中に入って行った。ぼくの目の前で、髪の毛を逆立たせたスワキくんがキョトンとしていた。

 食後にひと仕事終え、12時も過ぎてレイデックス社をひとりで出た。雨が降っていた。車の中でエルヴィス・コステロの『Shipbuilding』を聴きながら、「チョキを出してよかった」とつくづく思った。倉敷の滞在日数、11日間経過。