新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.65 倉敷(2)

065.jpg Vol.2の評判は相変わらずいい。実際、コワいぐらいにいい。賛否両論もありうると思っていただけに、ぼくとしてはちょっと拍子抜けの感もなくはない。でも、とりあえずはよかった。それに比べて、ぼくのプライベートの部分、我が赤星家はというと、ちょっとピンチに陥っている。うちのオトンがそろそろキレそうなのだ。
 これが昔だったら、「またかいな」てなもんで、気にもとめなかっただろう。それぐらいうちのお父ちゃんはキレまくってた。カミソリの刃がむき身で歩いているような男だったから。それがいまでは面影もないぐらいに温和になってる。イラチなところはまだまだあるんだけど、ちょっとやそっとのことじゃ怒ったりしない。オカンからどんなわがままを言われても、かなえてやろうと手を尽くす。逆に、最近のオカンときたらモンスターぶりにますます磨きがかかって、さすがに手に負えなくなってきている。そして昨晩、ついにオトンが小噴火を起こしたらしい。
「もうわしゃいけんで」と、何度となく聞いたセリフをさらに実感を込めて。
「ありゃ病気なんじゃけんの。言うことをまともに受けとったらいけんで」とぼく。
「頭ではわかっとるんじゃ。でも、わしも人間じゃけんのお」
「そうじゃのお……」
「ほんまに困ったわいや……」
 てな感じで、何度目かの「施設に入れるかどうか」の相談とあいなった。そんな相談をしている傍で、オカンが居間と台所をよたよたと何度も往復していた。食べ終わった夕食のお皿や茶碗やらを左手だけで運んでいたのだ(いつもはぼくとオトンでやってますがな)。すべて運び終わった後、ぼくたちが話しているコタツのところにきて、ちょこんと座った。
「昔はオカンが、料理やら片づけやら全部やっとったのにな」ぼくがそう言うとオカンはただ笑ってた。「ほんまにようやっとったんじゃ」
「家事があんなにに大変じゃとは、昔は思うてもみんかったわいやのお」とオトン。
 3人でお茶を飲みながら、しばらく無言で過ごした。
 こうして何度目かの「施設に入れるかどうか」の相談は、コップのなかの水に落ちた一滴の墨汁のように、すうっと薄まって消えていくのだった。

 3月6日、月曜日。午後から倉敷商工会議所に行った後、倉敷の残りの配布場所へ配達。その後は児島に戻って、昨晩作ったカレーを親と一緒に食べる。午後7時からは山陽新聞の取材をカフェ「Womb」で受け、それから車で一路岡山へ。「サウダーヂな夜」へ20冊を届けた後、岡山の行きつけのカフェ「ユルスタ」へ。ここんちのマスターはvol.1からKJを随分気に入ってくれていて、vol.2を見せるのを楽しみにしていた。マスターはその場でじっくり見てくれた。そして、「1号目よりまたよくなってますね」と嬉しい言葉をいただいた。彼がお客さんにKJを渡したりするのを見たことはないが、きっと「この雑誌はね───」と説明してくれてるような気がする。ありがたいことです、ホンマに。

 今晩の配布をもって、倉敷・岡山の配布は終了した。今回は「ユルスタ」のように、KJをちゃんとサポートしてくれるお店には冊数を増やして設置するようにした。雑誌を理解してくれているお店と連携して配布していく───KJはvol.2にして、フリーマガジンの理想とするカタチにさらに一歩足を踏み込んでいる。倉敷の滞在日数、8日間経過。(写真はこのたびKJの発送用に新しく作った封筒。白地にロゴとURLのみのシンプルなデザインが気に入ってます)