「今日の昼は何が食べたい?」
ぼくがそう訊くと、オカンはきまってこう応える。
「なんでもええよ」
投げやりな「なんでもええよ」じゃなく、(アンタが作るもんだったら何でも美味しく食べさせてもらうよ、わたしゃ)みたいな優しい調子の「なんでもええよ」なのだ。で、ぼくが思いついた献立を伝える。たとえば「じゃあ、うどんにしようか」と。すると思いもよらぬ返答を浴びせられる。
「うどんは、わたしゃええわ」
え、さっきはなんでもいいって言ったのに……。
「じゃあ、カレーにする?」
「また、カレーかい?」
えええっ! カレー、久しく作ってないのに……。
「じゃあ、久しく作ってないところで、オムライスとか」
「ふうっ、オムライスもなあ……」
「う、うるさいわ! 黙って何でも食べんかい!」とぼくはキレたりしない。「じゃあ、とっておきのを作るけん」とか言って、しらっとオムライスを出したりする。
それにしてもうちの献立にはほとほと頭を悩ませられる。両親ともに偏食が激しく、しかもともに食べられない分野が違うときているから、ふたりの交わりの部分はものすごく限られるのだ。さらに、今回倉敷に帰ってすぐ、オトンから驚愕の事実を伝えられた。「わしもこの間の、医者から糖尿病じゃゆうて言われたけん」。えええっ! 両親ともに糖尿病かよお。追いうちをかけるようにまたオトン。「オカンがもう魚を食わん言いよるけん、頼むで」。うちには、肉を食べなくなったライオンが2頭いるようなもんだ。飼育係のぼくはもうどうしていいかわかりません。そうだ、ふたりに出家してもらうってどうかな。毎日精進料理でも食うとけ、てな感じで。
2月20日、月曜日。これまでおせち料理以外、レシピを見ながら料理を作ることは一切なかった。でも、さすがに最近は、料理本でも見なけりゃやっていけないことに気づき、『今晩のおかず』みたいなタイトルの本を買ってきて、まるで新妻のようにレシピに顔をくっつけながら料理している。昨晩は南京の煮物とさといもの直煮を作った。調味料の分量は適当なんだけど、もって生まれた料理人としての感性ゆえだろう、とんでもなく美味しいのができた。どんなに美味い料理を作っても、残りものを食べることがなかった両親が、「今晩のおかずもあれでいい」みたいなことをおっしゃった。
お言葉に甘えて、今晩のおかずは昨晩の煮物の残りと和風ハンバーグ。ハンバーグ1品しか作らなくていいからかなり楽だった。といっても、それでも手のこんだやつを作ってるのよ、ぼくは。ちゃんと炒めたタマネギのみじん切りを入れたりして。
KJの10号発行を達成したら、引退して、「男の料理教室」みたいなのを倉敷でやろうかな。「介護料理教室」とふたつクラスをもつことができるな。ぼくのリタイア後の人生は結構安泰かもしれん、肉を食べない2頭のライオンのおかげで。倉敷の滞在日数、4日間経過。