新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.59 東京(9)

059.jpg 『エクソシスト』の監督のウィリアム・フリードキンがこんなことを言っている。「監督をやらせてくれるなら、列に並んで、お金を払ってでもやりたい」。
 映画作りにたとえると、ぼくはプロデューサーと脚本を兼ねた監督みたいなもの。アートディレクターのニシハラくんが編集を兼ねた撮影監督(彼とは知り合ってまだ1年だけど、すでにヴェンダースにとってのロビー・ミューラーのような存在だ)。カメラマンの染ちゃんやイシイくん、ライターの黒住光、それにローランド、プシェメクが常連の役者で、今号では新しくKoomi、長島有里枝さん、ペドロが役者として参加してくれた。我ながら、優秀なスタッフが揃ってくれたとつくづく思う。
 Vol.2の制作が終わった。制作は準備期間を入れると約半年。そりゃ大変なこともいろいろとあったけど、メチャクチャ楽しかった。vol.2が創刊号同様にいい評価を受けることができたとしたら、それらはすべてスタッフのおかげだ。そしてぼくは「列に並んで、お金を払ってでも」、また彼らとvol.3をやりたいと心から願っている。

 2月12日、土曜日。午後から中目黒の目黒銀座商店街にある行き着けのカフェ「prata(0)」へ。この日はお店の女将・赤岩さんが主催する、サロマ湖の牡蠣を仕入れての、年に一度の「牡蠣まつり」(牡蠣好きが好きな時間に集まって、たらふく牡蠣を食べようじゃないかというシンプルなイベント)。数日前に食べたい牡蠣の個数をちゃんと伝えて予約してあったのだ。
「どうします、生で? それとも蒸しで?」
 女将のオススメはレアで食べる蒸し牡蠣だという。牡蠣は大好きだが、蒸し牡蠣なんて食べたことない。
「じゃあ、とりあえず5つぐらいを蒸しで」
 待つこと10分。出てきた牡蠣はすべて手のひらぐらいの大きさの殻つき。ナイフを使って殻を開けると、なんともいえない磯の香りが。フォークですくうと、貝柱が離れる瞬間に適度に太った身がプルン。うまい! 火の通り具合が絶妙で、柔らかな触感の後に甘みがじんわりついてくる。しかも殻にたまった汁のうまいこと。こりゃたまらん! あっという間に3つをたいらげてしまった。残りの牡蠣を蒸しと生の半々でオーダーし、出てきた個数をこれまたあっという間にたいらげた。いやあ、ホント幸せでした、わたし。「至福」という言葉は、こんなときにこそ使いたいね。

 夜は六本木ヒルズに、スピルバーグの『ミュンヘン』を観に行った。この映画は、黒住光が「krash cinema club」で触れていた。<欠点を補って余りある美点というか、スピルバーグ映画の凄い部分ってのは、その演出力の凄さがもうノーベル賞級に凄いわけで、多少の欠点をあげつらう気にはならない>。こんな文章を読んだら、映画好きとしてはやっぱり観に行かずにはいられない。で、映画はというと、ぼくには「多少の欠点」も見当たらなかった。文句なく素晴らしい映画だった。2時間と少しの間、惚れ惚れしながらスクリーンに見入っていた。これ、映画好きには本当に至福の時間だ。
 今日の昼の牡蠣といい、『ミュンヘン』といい、ぼくには最高のご褒美だった。これ以上はもう望まない。来週からはvol.3に向けてまい進できる。東京の滞在日数、28日間経過。