今日は正午に出勤。Wombのニシハラくんから郵便物を渡され、年賀状の一枚を読みながら階段をのぼっていた。そろそろのぼりきるというところでふと顔を上げて驚いた。目の前に異形な顔があった。ペグのベック。階段の一番上のところでぼくを待っていたらしい。「うわ、ビックリしたあ!」、思わず叫んだ。まわりに誰もいなくても、驚いたときには「ビックリしたあ!」と言い、痛いときには「痛いよお!」と言うのがぼくというオトコなのだ。一方、「ビックリしたあ!」の声に、ぼく以上にビックリしたのがベックだった。顔とカラダを小刻みに震わせながら、おびえた目でぼくの顔を見上げていた。「悪いな、許せ、ベック」。そう言って頭をなでると、お尻のあたりで、ブッ。ん、なんだ? 今度は首のあたりをなでる。するとまた、ブッ。ベックはその後も部屋のなかをうろうろしながら、しばらく屁をこきつづけた。部屋のなかの匂いの変化はいわずもがなだ。
ベックを驚かせちゃいけない───。これ、今年初の教訓である。
ベックの話でなぜか黒住のことを思い出した。彼とTARZAN編集部にいる遠藤さんと3人でアメリカを旅したときのこと。ぼくたちはモーテルによく泊まった。モーテルというと、たいていはツインベッド。遠藤さんはぼくと黒住よりも4歳ほど年上なので、ぼくと黒住がひとつのベッドで一緒に寝ることが多かった。
そんな旅の途中のある夜のこと。ベッドで寝ていたら、横で黒住がなにやらむにゃむにゃ言ったかと思うと、ぼくの顔にグーのパンチが炸裂した。たいした勢いがじゃなかったかもしれないけど、眠っていたぼくにしたら、あさま山荘事件で見た巨大な鉄球(山荘の壁を壊すのに使ってました)が顔の上に落ちてきたぐらいの衝撃があった。おもわずカラダを起こして黒住を見ると、ヤツはすやすやと何事もなかったように眠っていた。眠っている相手に何を言ってもはじまらないので、ぼくはそのまま顔をさすりながらまた横になった。しばらく寝つけなかったのは言うまでもない。
翌朝、文句のひとつも言ってやろうと思って、黒住に昨晩のことを話した。すると、思いもしない言葉が返ってきた。
「ああ、知ってるよ」
ぼくにパンチをお見舞いしたことを、なんと憶えているというのだ。
「はあああん?」
「だって、ああゆう場合に謝るのもなんだと思ってさ」
全然説明になっていないんだけど、意味はわからないでもなかったので、ぼくもそれ以上何も言わず、そのまま深夜の殴打事件はうやむやになった。
そのときの教訓はこうだ。黒住の横で寝るときはなるべく距離をとれ───。
たいした教訓じゃないといってバカにしちゃいけない。この手の浅い教訓を積み重ねて、人は人とうまく付き合う術を身につけていくのだ。