新・不定点観測

赤星豊

vol.50 プーさんのショートケーキ

 倉敷にまた新しい雑誌が誕生した。「女性のための岡山情報誌」を売り文句にした月刊誌『Sizzle』がそれ。KJを創刊した昨年9月の時点では、倉敷にタウン誌はなかった。それが今年に入って状況が一変。まずは、地元アーティストを集めて「地方を元気にする!」という『倉式』(年2回発行)が創刊。今年の秋には倉敷で開催されるイベントとタイアップした雑誌『暮らしき』(年2回発行)も出た。そして今回の『Sizzle』。気がつけば、ちょっとしたタウン誌ブームじゃないですか。
 先陣を切った立場としてコメントを求められたら、「おおいに結構ですわい」とでも答えようか。世の中、なんでもすべてウェブに移行しようかという時代に、紙のメディアがすたれるどころか、一市内にこれだけあふれてくるなんて思いもしなかった。同じ紙媒体をやってる人間としては歓迎すべきことだと思う。それにしても、時代がどうあろうが無視を決め込んだようなこの振る舞い、さすがは倉敷と言わざるをえない。
「時代を無視した」という意味では、『Sizzle』の巻頭にある古市健三・倉敷市長のあいさつ文。これにはまいったね。「女性のための情報誌」に市長が巻頭で、しかも写真付きで登場するんだから。倉敷市長ともあろう人が、なんでこんなに恥ずかしいことをするかね。そうなった経緯はまったく分からないんだけど、お金をもらっていたとしてもだ、雑誌もどうして誰も止められなかったのかね。人も雑誌も、最低限の品位は必要なんだよ。

 児島にいると、うっかりしてるとクリスマスだってことを忘れてしまう。それぐらい、町にクリスマスを感じさせるものが何もない。うちのオトンとオカンは今日がクリスマスだってことを知ってるんだろうか。夕方、マルナカで夕食の買い物のついでにケーキ屋さんに寄った。イチゴの入ったショートケーキが欲しかったんだけど、イチゴ入りはホールしかなかった。老人がふたりに中年男ひとりの家にホールはつらい。というわけで、生クリームの上にクマのプーさんの絵と「Merry Christmas」の文字が入った飾りがのっかったショートケーキを3つ買って帰った。210円が3つでしめて630円ナリ。
 ぼくが夕飯を食べ終わって、「ケーキがあるんじゃけど、食うか?」と聞くと、オトンが「おお、食うで。そうじゃの、クリスマスじゃったの、今日は」。オカンとふたりでひとつでいいというので、ショートケーキを半分に切って皿にのせ、オトンとオカンの前に出した。オカンの方に板チョコとひいらぎの飾りをのせて、オトンにプーさんをのっけた。
「こんなん食べたことないわ」とオカンが笑いながら言って、左手にもったスプーンで食べ始めた。オトンはまだお茶漬けの途中で、オカンの様子を見ながら茶漬けをすすっていた。オカンはふた口ぐらいでペロリとたいらげて言った。
「おいしかったわあ。最高のクリスマスじゃわ」。
 210円のプーさんのショートケーキ。赤星家のつつましいクリスマスの図───これ以上は望まない。来年もこれでいい。