12月下旬から3週間近くいた倉敷も今日で終わり。今回の倉敷はビートルズの『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』みたいだった。やけに悲しくて、混沌としていて、現実感が乏しくて、でも現実的で。後で思い返すと、たぶんあやふやで朦朧としてると思う。それなのに、ぼくの人生には決定的な何かをもたらしてるような気がしなくもない。どこかに迷い込んでたんかも。「何かをもたらしてる」といのは、迷い込んだそこから何かをもって帰ってるような感じがするのだ。はたしてそれはいいものなんだか、悪いものなんだか。
1月14日、日曜日。午前10時半起床。眠い。死にたくなるぐらい眠い。でも、今朝は何があっても起きねばならぬ。将棋のNHK杯、谷川浩司×藤井猛という好取組があるからだ。ぼくには棋界にふたりの大好きな棋士がいる。羽生善治と谷川浩司。羽生さんは5年ほど前に一度取材していっぺんにファンになった。頭のよさと人柄に、「こんな男がいるのか」と感動さえした。谷川さんには残念ながら会ったことはないが、将棋をちょっと突っ込んで勉強した時期に、彼の将棋に魅了された。相手の剣を寸分のところでかわして、一閃でしとめる。そんな切れ味鋭い将棋のなかに、彼の美学を見たのである。
形勢は谷川さんが圧倒的に不利。玉の囲いは薄いし、相手の飛車に成りこまれてる。どう見てもこりゃ負けだ。「ファンとして見とどけなければ」という気持ちもあるが、いかんせん、そろそろ親の昼飯を作らないといけない。テレビを中座して台所に立った。今日のお昼はチャーハン。わりとうまくできたんだけど、オトンは半分ぐらい残してた。先週、新幹線の中で見たニューステロップを思い出す。そこには、「味噌汁を食べてくれなかった」という理由で、37歳の男が母親を殺したとあった。「チャーハンを食べてくれなかった」というのも、もしかしたら殺人の理由になりうるんかな。残そうが何しようがぼくは何とも思わんけど。たぶん、彼は介護で精神的にまいってたんだろう。分からないでもないが、正直同情する気持ちはまったくない。
正午少し前にテレビをつける。谷川×藤井の感想戦中。なんと、谷川さんが勝っていた。今年に入ってからの「嬉しかったことベスト5」に入れたいぐらい嬉しい。でも、その大逆転を見れなかったのは「悲しいことワースト5」入り決定だ。
午後は近所の「Womb」で、図書館から借りた『水島臨海工業地帯』を読んで過ごす。水島コンビナートの歴史、これメチャクチャ面白いのだ。でも、趣味で読んでたわけじゃない。そろそろ水島特集の原稿にとりかからないといけないのである。というわけで、最近は昼も夜も、このカフェで資料を読んだり原稿を書いてることが多い。
今日の夜もまた戻ってきて、ここで原稿を書いていた。いつも座る席で。これじゃまるでぼくのオフィスだ。でも、お店の西原兄弟とその嫁はイヤがってもいない模様。児島にオフィスを借りるまで好意に甘えさせてもらうことにしよう。やけに落ち着くしね、ここ。
今日は今回の倉敷滞在のなかで一番おだやかな日だった。これまでの混沌も1日、静かな今日も1日。ぼくの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」はこうして過去のなかに埋もれていくのだ。倉敷の滞在日数、20日間経過。