ニョンくんが大阪からやってきた。ニョン・グェンくん、33歳、アーティスト。彼との出会いは、彼からのEメールだった。「大阪で偶然KJを手にしたんだけど、最高にクールだよ。ぼくも作品を描いているから、よかったら見て。コラボできたら嬉しいな」、みたいな内容だったと思う。この手のメールはニョンくんやフォトグラファーのマチェイがそうであったように、日本人よりも外国人からのものが圧倒的に多い。で、彼のホームページを見てみたら、これが最高にイカしてた。ストリートでスケボーやダンスをしている若い子たちを描いた作品はすべて躍動感にあふれていて、背景の配色なんかにもほとばしるセンスを感じた。ぼくは即答した。「もちろん、オッケーだ。是非一緒にやろう」。それがちょうど1年前ぐらいのこと。で、ついに今回の来倉となったわけだ。
vol.4の下津井特集の目玉といっていいだろう。同じ下津井をテーマに、4人のアーティストに作品を制作してもらっている。「岡山のバスキア」こと廣中薫さん(ぼくがいつもそう言ってます)、鎌倉の自由人・西浦祐太くん、ポーランド人のマチェイ、それにベトナム系アメリカ人のニョンくんだ。よくもまあこんな取り合わせを思いついたなと思う。出身もやってるジャンルもバラバラ。でも、アーティストとしての資質はみんなピカイチだ。ぼく自身、彼らの作品を一日も早く見てみたくてワクワクする日々を送っている。
さて、ニョンくんだ。ふたりで早速、下津井に向かった。瀬戸大橋を見上げながら、漁港に沿って車を走らせていたときのこと。彼がぽつりと言った。「シアトルと似てるね」。シアトルはニョンくんが2年前まで暮らしていた彼の故郷である。下津井とシアトルが似ている───。ふむ、ぼくには「いなり寿司とカレーライスが似ている」と言われたようなもんだった。たしかに双方ともにご飯を使っているという共通点はあるけど……。
「いや、シアトルもこんな感じで漁港があって、船がたくさんあって、それに海に小さな島がたくさんあるんだよ」
なるほど。ご飯以外にも共通点があったわけだ。「だったらマルセイユと下津井も似ているかもしれないね」なんて意地悪なことをぼくは言わない。「そりゃ意外だよ」とだけ返しておいた。今回、下津井をテーマにしているんだけど、下津井がものすごく特殊な町というわけじゃない。どちらかというと、典型的な日本の漁師町だ。そこに面白さはなかなか感じることができないし、海外の、たとえばシアトルとかマルセイユなんかと並べたら、ちょっと臆してしまうところもある。地元という意識があるからだろう、とても同じ机の上に並べることはできないのである。その点、彼らの目はフェアだ。だからきっと彼らの言うことの方が正しい。下津井とマルセイユは似ている───。違った、もとい。下津井とシアトルは似ている───。
ニョンくんはキャノンの一眼レフを2台使って、下津井の写真を撮りまくった(写真参照)。彼が切り取った写真が、どんな風に作品になるのだろう。ぼくはニョンくんがカメラのシャッターを切るたびに、胸を躍らせていた。いやあ、楽しみだ、次号のvol.4。ポーランドのファッションもあるしね。でも、その前にまた例の生みの苦しみを味わねば。もちろん、原稿はまだ1ページも手をつけてない。ああ、原稿を考えると憂鬱だなあ。黒住、助けてくれないかなあ。ドリュー・バリモアのネタにはすぐ食いついてくるんだけどなあ……(黒住がCINEMA CLUBをまたまた更新してます。要チェック!)