新・不定点観測

赤星豊

vol.42 聞き上手

 この秋はなんやかんやと忙しかった。4年ほど前から翻訳のリライトを担当しているドイツの季刊誌『MINIInternational』(MINI Cooperの広報誌、世界の都市のアートやカルチャーを紹介してます)が、定例の号に加えてぶ厚い増刊号を出した。JRの岡山キャンペーンのポスター制作のコンペに参加した。KJフェスティバルを開催した。タツノオトシゴを捕りに行った。vol.4の営業に精を出した——。そしていつの間にか冬である。めっきり寒くなった。寒いのが苦手だからか、どこにいても寒さを感じる。町は人がいなくて寒々しいし(これは夏でも変わらないんだけど)、道路は街路樹の葉が落ちて寒々しいし、実際、編集室にいても暖房と電気ストーブをつけているにもかかわらず足もとが冷える。暗くなるのもやけに早い。さっきラジオが言ってた。「今日の日の入りは午後4時55分です」。驚いた。倉敷ではドラキュラが5時から徘徊できるのだ。

 今週、突然の来客があった。10月のKJフェスのときにちょっとだけ話した人だった。「あのときあまり話せなかったので、一度ゆっくり話したいと思ってやってきました」と。おカタい仕事をやってらっしゃる方で、ぼくのような人間の話を聞くことでバランスをとっていると言う。じゃあ何から話そうかと世間話をする一方で考えていると、能勢伊勢雄氏の話になった。この方、能勢さんの熱烈な信奉者で、彼がいかにスゴい人かをとうとうと述べ始めた。その間、ぼくはずっと聞き役である。ひと通り能勢さんの話が終わって、彼が言った。「能勢さんとか赤星さんの話を聞くのは、私なんかにはすごく貴重な体験なんです」。じゃあ、そろそろぼくの話をした方がいいのかと思って話し始めようとすると、このお人、ぼくの言葉にかぶせるようにしてさらに能勢さんの話を始めた。ぼくはあらゆるあいづちを駆使して聞き役に徹した。そしてついに能勢さんの話が終わった。さていよいよぼくの話をと思って口を開こうとすると、今度は彼が彼自身の話をはじめた。自分がやっているアート的な活動とか、いまの仕事で接する人たちからいかに貴重な体験を得ているかを、これまたとうとうと語る。ぼくもほとほとあいづちにも疲れてきた。もともと他人の話を聞かされるのは好きじゃないのだ。時計をちらと見る。もう40分ぐらい経ぎてる。なんなんだ、この人は? KJをライバル視する雑誌からの刺客か? 
 結局、1時間ほど話を聞かされたところで、「約束がありますから」とぼくは席を立った。「また遊びに来てもいいでしょうか?」と聞く彼。
「いや、もう二度と来ないでほしいね」と答える代わりに、「いつでもどうぞ」と笑顔で応えるぼく。ああ、もう六口島にでも編集室を移したい……。

 唐突だけど、来週からポーランドに行ってくる。vol.4のファッション撮影をポーランドでやるのだ。Wombのマキちゃんから、「本当に行くんですか?」と笑いながら聞かれた。そう、本当に行くのよ、ぼく。昨日、撮影用の商品をダンボールに詰め込んで、ポーランドにいるフォトグラファーのもとに送った。それでもいまもまったく現実感がない。そういえば、昨日、郵便局の局員がぼくの顔を見て、「結構高いですけど、いいんですか?」と聞いた。前もってEMSの張り紙に書き込んで用意していたにもかかわらずだ。たぶん、ぼくが思いつきでポーランドの孤児院とか難民施設に古着でも送ろうとしているとでも思ったのかもしれない。ああ、もうなんだかすべてが寒い……。