新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.40 ブライトン

040.jpg 駅を降りるとカモメの鳴き声が聞こえた。空気は湿って、かすかに潮のにおいがする。地図ももたずに、まっすぐ駅からの坂を下った。通りの両側には、ブティックや携帯電話のショップ、パブ、レストランがずらりと並んでいる。そのまままっすぐ10分ほど歩くと、垂直に交わる道路の向こうに海が見えた。そこに海があることはなんとなくわかってた。 

 ビーチの東に長い桟橋が見えた。その桟橋の先っぽに遊園地がある。カメラマンのkoomiから聞いてた「ブライトン・ピアー」だ。ブライトンに来た一番の目的は、この桟橋を見ることだった。彼女の話から、たぶん映画『モナリザ』のラスト近くに出てきたあの場所だろうと思ってた(ニール・ジョーダンの映画の中ではこれが一番好きだ)。かなわぬ恋をしてしまった男の、つらさ、寂しさが見事にマッチした背景として、この桟橋が使われている。なんとも物悲しい雰囲気の場所なわけだ。
 
 やっぱり物悲しかった。観光客はちらほら、ほとんど遊具の動いていない遊園地からはシンディ・ローパーの曲が流れていた。これなら、鷲羽山ハイランドの遊園地の方がまだにぎやかに見えるかもしれない。でも、この「物悲しさ」がしびれるぐらいよかった。桟橋のベンチに座って、ときどきタバコを吸いながら1時間ほど過ごした。べつに感傷的になったりしない。物悲しい場所が、昔からぼくには心地いいだけだ。

 ビーチ沿いのホテルに、1泊20ポンドのホテルを見つけた。ホテルというよりもB&B(日本でいうペンションみたいなもの)に近い。朝食付きでこの料金はロンドンじゃありえない。部屋を見せてもらうと、最上階で、しかも目の前にビーチが臨めるベランダがあったので2泊することにした。ロンドンでいろいろと動いているより、ここでのんびりする方がいい。やることなんて何もないけど、ビーチがあるし、それに歩いて来る途中に映画館を見つけていた。2日ぐらいなら、もうほかにはなんもいらんね。 というわけで、このイギリス南部の海沿いの街で2日間を過ごした。その間何をしていたか。ビーチを散歩して、桟橋を歩いて、フィッシュ&チップスを食べ、映画を見て(『キングコング』とジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』を見ました)、2回ほどインターネットカフェでメールをチェックして、それでもって1日8時間は寝た。ただそんだけ。全然退屈しなかった。あと2ヶ月ぐらいはそうやって毎日過ごせるね。でも、そんなわけにいかない。次の2ヶ月は次号のためにがむしゃらにやらんと。というわけで、ブライトンは本当にいい休養になりました。