新・不定点観測

赤星豊

vol.33 映画コラムを書こう

 黒住光があまりにも映画の更新をしてくれないので、たまにはぼくが映画の話をしてみようと思う。映画を見始めたのは小学校4年生の頃。きっかけは生涯最初で最後のアイドル、ブルース・リーだった。4部作すべてを児島の映画館で見て、味をしめたぼくはそのまま映画館通いをつづけて『タワーリング・インフェルノ』や『ジャガー・ノート』や『カサンドラ・クロス』などパニックブームの映画ををかたっぱしから見た。しかし、児島の映画館は3番館ぐらいで、ロードショーから数カ月は公開が遅れていたものだから、ロードショー公開している岡山の映画館にはずっと憧れていた。そして、ついに岡山デビューを果たす日がやってくる。

当時のパニックブームの最後の作品として公開された『ジョーズ』である。忘れもしない、小学校6年のお正月だった。オトンに無理を言って、岡山駅近くの70mmグランドに連れていってもらった。嬉しかったね。本当に嬉しかった。岡山の映画館で映画を見るというだけで幸せなのに、あの映画の衝撃はスゴかった。いまだに、海で泳いでいてサメに襲われる夢を見る、それぐらい小学生のぼくにはコワかった。同時に、映画で「体験」することを初めて知った。ぼくはまさにロバート・ショー演じる漁師のボロ船に同乗して、ロイ・シェイダーとリチャード・ドレイファスとともにシャーク・ハンティングに海に出たような気分になっていたのだ。コワいんだけど、快感はひとしおだった。それからぼくは『ジョーズ』での体験を知らせたくてたまらなくなり、学級新聞を作って、新聞のなかで『ジョーズ』がいかに面白い映画であるかをPRした。いま思えば、これがぼくのライターとしての原体験だったのかもしれない。ちなみに当時のぼくの夢は映画監督になることだった。

『ジョーズ』以降、ひとりでバスに1時間揺られて岡山まで映画を見に出かけるようになっていた。当時は雑誌の『ロードショー』の中にある、評論家たちの採点をまとめたページを手がかりに見に行くかどうかを決めていた。今でもはっきり憶えている。ぼくが中学1年のとき、各評論家が最高点に近い点をつけた映画があった。ロバート・レッドフォード&ダスティン・ホフマン主演の『大統領の陰謀』である。岡山行きの前日の夜にはワクワクして眠れないぐらい楽しみにしていた───なのに、なのにだ。映画はひどかった。もう泣きたくなった。そりゃそうだ。ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を克明につづった映画なんか、いくらマセているとはいえ、中学1年生に理解できるわけがないのだ。おまけに同時上映の『暁の七人』がすごく暗くてイタい映画で(第二次世界大戦中のチェコかどこかの特殊部隊の話だったと思う。七人すべて悲惨な死を遂げます)、うなだれるようにしてひとり岡山からバスに乗ったのを憶えている。

 『ジョーズ』と同等の衝撃を受けるのは、それから10年後のこと。大学生のときに新宿で見た『ディア・ハンター』である。それからまた約10年後には、エドワード・ヤンの『クーリンチェ少年殺人事件』という、心酔しまくった映画に出会っている。
 そしてそれから十数年。そろそろまたエピックになるような映画に出会うんじゃないかと楽しみにしている今日この頃なのだった───と、今回は映画について書いてみたわけだが、やっぱり黒住の方がはるかに面白いと認めざるをえない。これだけあっさりぼくが認めてるんだから、ちゃんと書けよな、黒住。