児島の実家に太郎という柴犬の雑種がいた。10年ほど前にぼくが近所で拾った。東京に連れて帰ろうとしたんだけど、オトンが飼うというので実家で飼うことになった。以来、我が家の番犬として、オトンの運動の友として、たまにぼくが帰ったときの遊び相手として愛され続けてきた。そんな太郎が、昨年の夏、失踪してしまった。オトンが車で唐琴まで墓参りに行った際、離して遊ばせてやってたら、野犬と一緒に山に消えたという。太郎がいなくなって、オトンもぼくもしばらく悲しい思いをした。でも、今では「太郎も童貞を捨て、オトコとして第二の人生を謳歌してるだろう」てなことで納得している。
11月26日、土曜日。今日は、KJを見て奈良県から倉敷に遊びにやってきたというMさんを下津井に案内した(本当はこんなサービスはどこにもうたってないんだけど、まあ今回が最初で最後ということで)。彼女は写真が趣味のようで、古いLOMOのカメラを3台携え、瀬戸内の景色や天日干しされたタコの写真を撮っていた。田ノ浦から吹上に行く途中、祇園神社に寄った。実はここ、うちの本家でもある。本当はあまり積極的に寄りたい場所じゃないんだけど、ここの境内は海に面した小山の頂にあり、景色が抜群にいいのだ。長い石段を上っていると、上から軍歌のようなメロディが聞こえてきた。上に近づくにつれ、音量が大きくなっていく。石段を登りきると、海に面した石垣の上に結構デカいカラオケ用のプレイヤーがドンと置いてあるのを見つけた。流れているのは鶴田浩二のアルバムのようだった。そして、そのすぐ下の林から、枝を剪定する音に気づいた。上からのぞくと、すぐ目の前にベレー帽をかぶった叔父がいた。なんとこの宮司の叔父、剪定のBGMとして大音量で鶴田浩二を聴いていたのだ。さすがはうちのオトンの兄だけのことはある。やることがまったく予測できん。叔父に見つかったら最後、家に上げられ、1時間は離してくれないので、Mさんの腕をとるようにしてそそくさとその場を離れた。
下津井のかつてのメインストリート(といっても対向車がくるとヒヤリとするような細い道だ)と沿道の家並みは、昔とほとんど変わっていない。海側に新道ができたので車の通りがまったくなく、昔よりも雰囲気はのんびりとしていた。首輪をした、茶色の毛足の長い犬が道の真ん中で寝そべっていた。ぼくたちが寄っていってもまったく逃げない。明らかに放し飼いである。Mさんが犬の撮影にいそしんでいると、すぐ目の前の家からオバちゃんが出てきた。オバちゃんの連れていた真っ白の犬(あとで「ゴンちゃん」と判明)、その顔を見て思わず目が点になった。真っ白な顔に眉があるのだ。どう見ても、誰かが書いたとしか思えない。「オバちゃん、その眉、誰が書いたん?」と聞くと、オバちゃんは笑いながら「知らん」と言った。「私がやった」といわんばかりの「知らん」だった。うちのオトンといい、叔父といい、このオバちゃんといい、下津井の人はやることがお茶目だね、ホント。それにしても、ゴンちゃん、可愛いね。似ても似つかないんだけど、その間抜けな顔を見ていると、うちの太郎を思い出した。もっと一緒に遊びたかったな。いつかひょっこり帰ってきたら、ゴンちゃんみたいな眉毛を書いてやろう。
児島で一風変わった人や犬を見続けたMさん。別れ際に児島の印象を聞くと、こう応えてくれた。「児島はどこに行っても不思議と落ち着きますね」。それもまた意外な……。倉敷の滞在日数、3日間経過。