新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.23 倉敷(6)

023.jpg フリーライターとして東京で15年ぐらい食べてきた。腕はそこそこのもんだと思っている。今でこそ心から「そこそこ」と思ってるけど、ちょっと前までは「オラが一番」ぐらいに思っていた。それでも、「こいつはウマい!」と認めている同業者も何人かいた。『TARZAN』の石飛カノ。この人は何でも書けるライターで、なにを書かせてもうまい。とくに話の枕が絶品なのだ。『クウネル』の鈴木るみこ。彼女に初めて会ったとき、「アンタ、どうやって書いとんの?」と聞いたぐらい文章がうまい。人のもつ雰囲気を伝えさせたら彼女の右に出るライターはいないだろうね。それから、悔しいけど黒住光。悔しいから彼にはこれ以上触れないことにする。
 こんな人たちがすぐまわりにいるぐらいだから、実際、全体から見るとぼくなんか「そこそこ」のもんだろう、と今は本気で思ってるわけだ。でも、最近、ぼくのつつましやかな「そこそこ」のポジションにも危機が迫っている。目の届く範囲に強力なのが出現したのだ。蟲文庫の田中美穂さんである。彼女にはKJ創刊号で「蟲日記」というエッセイを書いてもらった。実は同じタイトルで彼女は自身のHPに日記を書いている。それがホントにうまい、面白い(0)。KJ編集長としては喜ばしいかぎりではある。しかし、いちライターとして「プロとして負けらない」と意地をはってる自分がいる。しかも更新の頻度が高いから、彼女の日記が更新されていると反射的に「ヤバい!」と思ってしまう。「ワシもはよ書かにゃあ」と焦りさえする。これじゃもう完全にライバルである。
 でも、ぼくの目の届く範囲にそんなスゴい人がいるんだから、全体から見ればぼくなんか「そこそこ」の「底」てなところだろう(それでもまだ「そこそこ」なわけ)。最近、「不定点でも<観測>っていいながら、観測してるんですか?」みたいなことも言われるし。次からはコラムのタイトルでも変えてみよう。「底の愚痴」とかなんとか。

 11月13日、日曜日。前々日に児島に住むアメリカ人のジャッキーからメールをもらった。「クラシキはなんでこんなに寒いの? ストーブを買いに行きたいから、車で連れてってくれない?」といった内容で。「配達してもらえばいいじゃない?」とは思っていても書かなかった。「配達してもらえばいいじゃない?」と思いながら、「もちろん、オッケーさ!」と返事してしまうのがこのぼくである。というわけで、今日は午後からジャッキーのおともで児島にある「デオデオ」にストーブを買いに行った。
 ジャッキーはさんざん迷った挙句、4700円の電気ストーブを買った。彼女は滅茶苦茶ハッピーそうだった。手にもった電気ストーブを見て、「ワアォ!」とか言ってる。よく分からないハッピーだが、一緒にいる人がハッピーだと、なんかこっちもハッピーだ。いきおい、唐琴まで足を伸ばして「いしはる」のぶっかけうどんを食べに行った。彼女は30分ぐらいかけてうどんと格闘していた。本人も「これ、レスリングだわ」と言いながら楽しそうに食べてた。楽しそうに食べる人を見るのは楽しいもんだ。これまたいきおい、王子ケ岳まで車で行った。ここの景観は何度見ても感動する。ジャッキーも「spectacular !」を連発していた。岩の上でふたり感動して瀬戸内海を眺めていたら、近くの岩の上に2匹の猫を見つけた。海を見てたわけじゃないけど、いかにもカップルが海を眺めているような風情だった。彼らを眺めてたら、なんか暖かい気持ちがした。たぶんハッピーなジャッキーが呼んだのだろう。ジャッキー、今日はありがとう。あのストーブ、たぶんあんまり暖かくないけど、風邪ひかないでね。倉敷の滞在日数、16日間経過。