新・不定点観測

赤星豊

不定点観測:vol.22 倉敷(5)

022.jpg 先日、岡山に出た際のこと。時間が見事にぽっかり空いてしまったので、お気に入りのカフェ「ユルスタ」で時間をつぶしていた。創刊号の表紙のイラストを描いてくれたヒロナカさんが近所に住んでるのでちょっと電話してみたら、そこに来てくれると言う。20分ほどして彼女がやって来た。椅子にも座らず立ったまま「青森のお土産なの」と言って、たくあんをわたされた。「もうホントに美味しくって、感動しちゃって。これ、昨日からちょっとずつ切って食べてるの」と、いつもの感動口調で。彼女は結局、椅子に座ることなく、「これからギャラリーのオープニングパーティに行くから」と去っていった。すぐにそう広くもない店内に、たくあん独特のあのにおいが漂う。強烈な土産をもらってしまった。
 帰りの電車がこれ最悪だった。たくあんの威力がなぜか倍増しているのだ。真向かいに座った女の人はぼくの顔を見ないようにしてるし。誰か言ってくれたらいいのだ。「なんか臭いですよね」とかなんとか。そうなると、「いや、たくあんをもらいましてね」と言い訳もできようもんなのに。あの30分はかなりつらかったね。
 実は我が赤星家には、たくあんにまつわる忘れがたい習慣があった。ぼくが物心ついた頃からあった「ガリガリ、プッ」。たくあんを食べる独特なスタイルというか。オヤジが飯の最中にぼくに言うわけである。「おえ、<ガリガリ、プッ>しちゃろうか?」。するとオヤジはぼくの茶碗を手にとって、たくあんを小さくガリッとかじってはプッ、ガリッとかじってはプッとご飯の上に吐き出し、お白湯をかけてお茶漬けにしてぼくに返す。これぞ恐怖の「ガリガリ、プッ」の全貌だ(オヤジは自分でもそうやって食べてたな、そういえば)。さらにこの思い出の一品をおぞましくしているのは、ぼくがこの「ガリガリ、プッ」を好きだったという事実だ。「しちゃろうか?」と聞かれた幼いユタカくんは、いつも100%の笑顔で応えていたのだ、きっと。恐るべき親子愛である。逆に今の時代こそ広めたいもんである。『キューピー3分クッキング』にオヤジ出したろうかな。ま、出れたとしても、放映できんだろうな、絶対。

 11月12日、土曜日。今日は朝から児島の縫製工場のクロスオーバーへ行って打ち合わせ。帰りに近所にある「東久」という小さなスーパーに寄った。ここに例の「梶谷のシガーフライ」があるという情報を数日前に入手していたのだ。ぼくが紹介したこの倉敷の逸品、東京で大ブレイクである。「お土産に買ってきて!」のメールが殺到しているのだ(ごくごく身内の話です、ハイ)。それもほとんどが『クウネル』を読んでそうな女性。元オリーブ少女たちはある共通した嗅覚をもっていて、「シガーフライ」に敏感に反応するようだ。まあ、ぼくとすれば、「とら醤油買ってきて!」と言われるよりはいいけど(重いからです)。
 で、「東久」にやっぱりあった。ここんちの菓子売り場をじっくり見てみたら、懐かしくて思わず「おおっ!」と声をあげそうになった商品がたくさんあった。「七尾のフレンチパピロ」、これよく食べたね。ロール状のせんべいにホイップクリームが入ってて、美味しいんだ、これが。「ココナッツサブレ」、これはもっとよく食べた。マーガリンを塗って食べたりしてたっけ。塩っ気が加わるとさらに味が深くなるのだ───って、こんなの次々紹介してたら、またまた女子たちのハートをゲットだね。倉敷の滞在日数、15日間経過。