今年6月、写真家のローランド・ハーゲンバーグが倉敷にやってきたときのこと。彼が「若い子たちを撮りたい」というので、一緒にイオン倉敷に行った(地域最大のショッピングセンターです)。モデルスカウトというやつだ。入り口にあるスターバックスの入り口で彼と別れ、ぼくは2階に行った。
20分ほどして、なんの成果もなくスターバックスに戻ると、ローランドがひとりの女の子と立ったまま話していた。話し終わるのをしばらく待っていたが、一向に話が終わらない。ちょっとおかしな感じがした。ローランドでなく、彼女の方が一方的に話しているのだ。近寄っていくぼくに気づいたローランドが、眉を曲げて「困ってます」の情けない顔を向けた。「こんにちは」と声をかけるまで、彼女はぼくにまったく気づかなかった。「こんにちは」とそっけなく返すと、彼女はまたすぐにローランドに顔を向け、流暢な英語で話を続けた。その内容をうかがって驚いた。なんと彼女、ローランドに「うちの教会に是非いらして」といった話をしているのだ。逆にスカウトされてどうする、ローランド! しかも目の前で「Are you Christian ?」とズバリ聞かれ、アーとかウーとかうなってるし。ローランドにはそのときのことが、相当にインパクトが強かったようだ。今でもローランドと話すと、あの彼女のことが必ず話題に出る。「倉敷のスカウティング・ガールはどうしてる?」と。知るわけねえじゃろ、そんなこと。
11月2日、水曜日。今日は久々に、倉敷の天満屋と郵便局のほぼ中間にあるケーキ屋さん「El・pandoll(エル・パンドール)」に行った。以前にここんちのザッハ・トルテを食べさせてもらったらえらく美味しくて、もう一度食べたいと常々思っていたのだ。実は「ひとりで男がケーキを食べに行く」というのはぼくの美学にムチャクチャ反する。まずありえんことである。でも、ぼくにはkrashjapanの配布という大義名分がある。しかもここの娘さんの大倉尚子さんにはkrash peopleに参加していただいてるので、「ついでに寄ってケーキよばれてますのよ」的雰囲気を漂わせることもできる(うーん、ムダに気を回してるよなあ)。
で、ザッハ・トルテ。まず食前に写真を撮った。尚子さんにはオーダーするときから「コラムで紹介するからね」と、ちょっといい顔を見せていたのだ。やっぱり美味しかった。甘みといい食感といい、この店のこのケーキ、かなり深いよ。
「チョコとスポンジの間に何か塗ってるよね?」
「アプリコットのジャムを塗ってあるんです。うちのザッハ・トルテはウィーンのザッハ・ホテルにあるのと同じスタイルで、ザッハ・トルテにはもうひとつメルデというのがあって───」
そんな話を聞きながら、何気なく撮った写真を拡大して液晶で見直した。あ……。ピントが全然合ってない。目の前のケーキに目を戻す。半分なくなっとる……。
夕方店を出ると、商店街のほとんどのお店が店じまいの最中だった。空気は相変わらずひんやりしている。この商店街はイオン倉敷に人の流れ───とくに若い人たち───をごっそりもっていかれている状態にある。でも、望みはある。このザッハ・トルテのように、あるいは倉敷東映で上映される日本映画のように、見てくれは地味だけど深みのある逸品がこの商店街にはまだまだある。krashjapanは俄然、商店街を応援していきます。倉敷の滞在日数、いまのところ5日間。