2002年の2月に、雑誌『BRUTUS』の仕事でウラジオストックからシベリア鉄道に乗ってモスクワまで行った。飛行機なら7,8時間の距離を列車で6泊7日。この旅でたくさんのことを知った。ロシア人が普段何を食べているか、お酒を飲むとどうなるか、家庭で作ったピロシキに何が入ってるか、ロシアの田舎町がどんな風景なのか、バイカル湖がいかに広いか。ロシア語も少し覚えたし(帰国後も2年ほど勉強しました)、得たものは数知れない。「移動速度が遅くなるほど、人は多くのものを発見する」。誰かがそんなことを言ってたけど、その人はきっとシベリア鉄道に乗ったことがあるに違いないね。
10月26日、水曜日。今日は昼から浅草の球場で、浅草の芸人チーム「ワンダラーズ」と定期戦を行う。試合は最終回にぼくの同点打で3対3の同点に追いつき、雨の中の延長戦とあいなった。しかし、我が「ドンキーズ」のリリーフが崩れに崩れ、なんと8回表に6点をとられてしまった。ところが相手ピッチャーのイエス玉川も崩れに崩れ、なんと7点を入れてサヨナラ勝ち。さすがに気持ちよかったね。球史に残るような試合を経験したこの感動を黒住光に話したら、「草野球っぽいな」と一言で片付けられてしまったのだが。
夜は市ヶ谷にある黒住の家で映画の上映会。会といっても参加者はぼくひとり。というのも、その夜上映するDVDは、去年彼とアメリカに行ったときに一緒に買ったやつだから。タイトルは『ババ・ホテップ』。プレスリーが実は生きていて、養老院だか精神病院だかを舞台にモンスターと戦うという、実に楽しそうなお話ではあるのだが、日本未公開なのもうなずける。前半はぼくがうとうとし、後半は黒住が本格的な眠りに落ちた。映画が終わって、部屋の明かりをつけてもヤツはまだ眠ったままで、「オレが教えてやるよ」とか妙な寝言まで言ってる。仕方ないから彼のコレクションのなかから見つけた『特攻大作戦』(ロバート・アルドリッチの傑作!)をひとりで見た。
家を出たのは夜中の1時半すぎ。雨もあがって気持ちのいい夜だったので、少し歩くことにした。お堀沿いの歩道を歩きながら、「ここって、『ノルウェイの森』で主人公が学生時代に女の子と歩いた場所だよな」と感慨にひたりながら歩いているうちに四谷駅に出た。少し先まで歩くと迎賓館の明かりが見えてきたので、さらに足を伸ばしてみた。迎賓館の前は小さな広場のようになっていて、ライティングの趣味はパリかと見間違うほどメチャクチャ雰囲気がいい。何度も車で通ったことがあるのに、これまでまったく気づかなかった。ひとりなのがもったいない。そこからさらに西に歩き、明治記念館を過ぎ、絵画館前の銀杏並木の通りを青山通りまで歩いた。この通り、よく見るとそれぞれの歩道の両側に銀杏があって、葉がアーチ状に歩道を覆っている。これもまた新しい発見だった。
そこまで来ると調子に乗って、表参道まで歩いてみた。昼間はファッショナブルなこの通りも、深夜は工事やその警備のオジサンばかりだ。その後、母校の青学を門の外から眺め、明治通りに出て、代官山まで歩いた。さすがに並木橋の坂は脚にきつかった。でもこうなりゃ意地である。そのまま我が町・中目黒まで歩きとおした。距離にして10km弱といったところだろうか(わしゃ病気か?)。マンションのある目黒商店街に入ったときは、正直ホッとした。暗い道を長いこと歩いたからだろう、誰もいない商店街はこれまで見たことがないほど明るく見えた(写真)。東京の滞在日数8日間。